個人投資家の起業/個人投資家として起業する際の注意点

日本は、個人の所得税が高いといわれています。4000万円以上になると、課税される所得税率は45%。この高い税率を避けるために、個人の高い税率の所得税から法人の低い所得税へと移行する手段として、個人投資家が資産運用会社を設立する動きがみられます。個人投資家が資産運用会社を設立する際のメリット、デメリットについて解説します。

1. 個人投資家とは

個人投資家が売買する投資商品には、株式や債券、FX、商品先物、そして不動産があります。個人投資家は、これらの投資商品の売買損益のキャピタルゲイン(ロス)と、保有中に得られる収入のインカムゲインを組み合わせて資産の運用を行っています。
キャピタルゲイン(ロス)とは、投資商品が各流通市場で変化する価格の上下を予測して取引を行った売買損益です。インカムゲインとは、株式では配当金、債券では利回り、不動産では賃貸物件の家賃収入など、保有中に得られる収入です。このキャピタルゲイン(ロス)とインカムゲインの収益に対する比率は、各々の個人投資家が持つ、投資に対する考え方や姿勢によって異なります。一般的にはデイトレーダーと呼ばれる方々は、キャピタルゲインを狙って売買を行います。不動産投資の場合は、投資物件から得られる家賃収益を中心として不動産への投資を行っています。

2. 資産運用会社を設立する

個人投資家の多くは、順調に収入が増えてくると、資産運用会社を設立します。それは、資産運用会社の方が、節税面でのメリットが受けられるからです。一方で、個人事業主から法人化すれば、会社設立に伴う費用や資本金などが必要となり、個人事業主では想定していなかった、法人に係る税金の支払い義務が発生するというデメリットもあります。

(1) 資産運用会社のメリット

資産運用会社を設立するメリットは、個人に対する高い所得税から、比較的低い法人税へ切り替えることで得られる節税効果です。個人の所得税率は所得が増えるにしたがって高くなっていきますが、法人税は、800万円までは15%、800万円以上は23.2%で固定されます。税率だけで比較すると、330万円を超えると、明らかに法人税の方が低くなります。

個人の所得税と法人税の税率

個人 法人
1,000円から1,949,000円まで 5% 15%
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 15%
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 15%
6,950,000円から7,999,000円まで 23% 15%
8,000,000円から8,999,000円まで 23% 23.2%
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 23.2%
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 23.2%
40,000,000円以上 45% 23.2%

さらに、法人税は、全ての所得の損益を合算する「損益通算」を経た最終利益に対して課税されますが、個人の所得税は、「総合課税」と「分離課税」の2つの課税方法に分かれていて、「分離課税」となっている所得は、「損益通算」の対象にはなっていません。つまり、ある所得で大きな損失が出ていても、合計所得が減ることなく、多くの税金を払うことになります。
「総合課税」の対象となるのは、「事業所得」、「不動産所得」、「給与所得」、「一時所得」です。これらは、一部の例外を除いて全ての所得を合算する「損益通算」で、その合計金額に課税されます。
一方、「分離課税」の対象となるのは、株式や債券などの金融商品や土地建物などの不動産の売買による「譲渡所得」やFXや先物商品の取引に係る「雑所得」などです。これらは、損失が発生しても他の所得との「損益通算」ができません。もちろん、損失となった場合に課税されることはありませんが、「総合課税」で確定した税金の納税義務は残ります。
このように個人の場合は、「分離課税」されることで、法人税のように「損益通算」の恩恵を受けることなく、実際に高い税金を支払う可能性が高いのです。

このような税制面での違いから、ある程度の事業規模になった時に、個人から法人へ、資産運用会社の設立を決断するケースが増えてくるのです。

参考:国税庁「所得税の税率」
参考:国税庁「法人税の税率」
参考:国税庁「損益通算」
参考:国税庁「所得の種類と課税方法」

さらに、個人から法人となると、銀行などの金融機関を利用した資金調達、融資が受けられるようになることや、個人では取引口座を開設できなかった大手事業会社と取引口座を開設できるようになるなど、社会的な信用力を持つことができるようになります。
この社会的な信用力をもつことは、ビジネスを成長させる上で大きな力となります。税制面や損益通算という財務・会計上のメリットよりも、この信用力を活用してビジネスを成長できる方が魅力に感じる方も多いと思います。

(2) 資産運用会社のデメリット

一方、資産運用会社を設立した際のデメリットについても触れておきましょう。
まず、会社設立に必要なコストが発生します。例えば、株式会社を設立するには、定款を作成し、公証人役場での認証を受けた後、法務局へ法人登記を申請し、会社代表印の届け出を行う必要があります。さらに、税務署や年金事務所、労働基準監督署や公共職業安定所(ハローワーク)、法人口座開設などの事務手続きや手数料、印紙代などでおおよそ30万円が必要です。この他にも資本金として、最低でも100万円程度は必要になります。
また、個人事業主であれば、経理ソフトに入力する程度の労力をかければ、所得税の申告を終えることができましたが、法人税では、個人の何倍もの申請書作成をしなくてはならなくなります。このような複雑な税務申告を、正確かつスピーディに処理するためには、大半の会社が会計事務所や税理事務所に書類作成を依頼しています。依頼の方法にもよって金額はまちまちでが、こうした税務コストも考慮しておく必要があります。

また、個人事業主にはない、法人にかかる様々な税金の支払い義務が発生します。主なものをご説明しましょう。

法人事業税

法人所得に税率をかけて計算する地方税です。
法人事業税=法人所得×税率(東京都の標準税率は7.0%)

法人住民税

「法人税に税率をかけて計算する所得割」と「事業規模に応じて課税される均等割」の合計額で計算する地方税です。この法人住民税には、2014年に創設された地方法人税も含まれています。
法人税割:法人税×税率(東京都の標準税率は7.0%)
均等割:資本金等の額(または資本金+資本準備金)と従業員数から算出
(東京都の場合は、最低年7万円になります)

消費税・地方消費税

法人化にともなって売上高が増えてくると、課税売上高1,000万円以下の事業者の納税義務が免除されている消費税(国税)・地方消費税(地方税)の納税も視野に入れておく必要があります。
消費者から預かった消費税=課税売上高×税率-課税仕入高×税率(仕入税額控除)
数値がプラスなら納付して、マイナスなら還付されます。

事業所税

一定規模以上の事業を行っている事業主に対して課税される税金です。
東京都の場合、資産割と従業者割の合計額で計算します。
資産割=事業所床面積(㎡)×税率600円
従業者割=従業者給与総額×税率0.25%

印紙税

不動産の譲渡契約書、請負に関する契約書、売上代金にかかる金銭または有価証券の受領書(領収書)など、20種類に及ぶ課税文書に対してかかる税金です。

参考:東京都主税局「法人事業税・法人都民税」
参考:国税庁「消費税及び地方消費税の税率」
参考:財務省「消費税に関する基本的な資料」
参考:国税庁「納税義務の免除」
参考:東京都主税局「事業所税」
参考:国税庁「印紙税額の一覧表(第1号文書から第20号文書まで)」

3. まとめ

今回は、個人投資家の方が資産運用会社を設立する、メリット・デメリットについて解説しました。
今後、日本に多くの外国企業を呼び込むために、世界的なレベルに法人税を引き下げる動きが高まっていくといわれています。所得税と法人税の税率の差が大きくなると、高い所得税から逃れる節税対策として、資産運用会社への転換を図る個人投資家が増えていくことでしょう。
しかし、法人化に伴って、新たに支払う税金や経費も増えていきます。さらに、炭素税など環境保護を名目とした増税構想が、政府から出てくる可能性もささやかれています。そうした動きにも目配りし、収支のバランスをシミュレーションして、着実にメリットが得られる運用規模、所得の見通しを立ててから、資産運用会社を設立した方がいいでしょう。

執筆者:大坪和博(おおつぼかずひろ)

宝石販売会社、市場調査会社、広告制作プロダクション、IRコンサルティング会社を経て独立。広報・IR分野のコンサルティングおよび記事執筆のジャーナリストとして活動。2020年、コロナウイルス感染拡大による社会的な構造変化の中で、オンラインサロン「コネタの森」オーナーとして、独自視点の経営・経済分析レポートを好評配信中。

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