税務調査とは/備えあれば憂いなし?

経営者であれば常に気にしておきたいのが税務調査。事業を健全に運営し、適切に納税をしていたとしても突然来る可能性がある税務調査ですが、その内容や実態についてはあまり知られていません。一般的に多くの経営者から恐れられている税務調査がやって来ても慌てず冷静に適切に対応するために、税務調査とは何か、任意調査と強制調査の違い、税務調査の流れ、税務調査のチェックポイント、税務調査が入りやすい企業・個人、調査官への対応等税務調査に臨む心構えなどについてまとめてみました。

1.税務調査とは

国税局査察部通称マルサと、脱税を企てる悪徳経営者との攻防を描いた伊丹十三監督の「マルサの女」という映画があります。あの手この手で売上の現金を隠し脱税しようとする悪徳経営者と、内偵を忍耐強く続けて脱税の証拠をつかもうとするマルサとの戦いが印象的な映画ですが、実際の税務調査とはいったいどのようなものなのでしょうか。

(1) 任意調査

ところで、税務調査を行う主体はどこでしょうか。日本では、国税局と税務署が税務調査を行います。税務署が管轄する地域の個人や企業に対して税務調査を行う一方、国税局は資本金1億円以上の大企業や著名人・資産家などの大口納税者などを対象に税務調査を行います。両者ともに申告書類などに疑義が認められた際、まずは、国税通則法第74条の2~第74条の6の質問検査権に基づいて個人や企業に照会します。そして、実際に帳簿類などを実地で検査する必要があると認められると、任意で調査に応じるよう求めてきます。これが任意調査ですが、実際の現場で行われている税務調査のほぼすべてが任意調査として行われています。

では、個人や企業は国税局や税務署による任意調査を拒否できるのでしょうか。答はNoです。国税局や税務署の当該職員は、各種の税に関する捜査について必要がある時には質問し、帳簿書類やその他の物件を捜査する権限が与えられているからです。さらに、国税通則法128条2号、3号により、任意調査を拒否した場合には1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性もあります。顧問税理士のスケジュールの都合がつかないなどのやむを得ない場合の「日程調整」はあり得るものの、税務調査そのものを拒否することはできません。

(2) 強制調査

一方、強制調査は裁判所の令状に基づき強制的に行われる税務調査です。多額の売上金を隠したり、架空の取引を計上して費用を水増ししたりするなどの悪質な脱税行為に対し、刑事罰を科すことを目的に行われます。当然のことながら、強制捜査には事前の通知や照会などはなく、捜査官が突然現場に踏み込んで行われます。まさに映画「マルサの女」で女主人公が悪徳経営者の自宅へガサ入れで踏み込むシーン通りです。強制調査は、脱税という犯罪行為を摘発するために行われるものであり、一般の個人や企業がまっとうな経営をして正しく納税している限り、強制捜査を受ける心配をする必要はありません。

2.税務調査のチェックポイント

では、実際に税務調査が行われる場合、国税局や税務署はどこをチェックしてくるのでしょうか。

まずチェックされるのが数字の整合性です。特に帳簿類を構成する基本情報となる総勘定元帳などを中心に、実際の売上や支出などの数字の整合性などがチェックされます。資料の不備が認められる数字については相当詳細に調べられます。中でも特に厳しくチェックされるのが売上、在庫、経費です。

売上では、売上の計上時期が意図的にずらされていないか、メインの銀行口座とは別の口座へ入金されていないか、売上の一部が除外されていないかなどがチェックされます。いずれも、納税回避を目的とした行為が存在しないか確認するためです。また、雑所得の計上漏れなどもチェックされます。

在庫も厳しくチェックされる項目です。在庫計上の時期、実際の在庫額と計上額との乖離の有無、在庫の計上漏れなどが重点的にチェックされます。在庫は利益調整を行いやすい項目のひとつであり、税務署が特に目を付ける部分です。

同様に、経費の妥当性なども、グループ会社間や取引先との取引の内容などを中心に厳しくチェックされます。不自然な減価償却費の一括計上や、事業と関係がない接待交際費などの支出、オーナーによる私的経費計上などもチェックの対象になります。

3.税務調査が入りやすい個人・会社

ところで、税務調査が入りやすい個人や会社は存在するのでしょうか。その前に、一般論として税務調査が入りやすい業種というものが存在します。バーや居酒屋などを含む飲食店、小売店、パチンコ店などの現金を多く扱う業種や、在庫で利益調整がしやすい個人開業医などは比較的税務調査が入りやすいとされています。また、業種を問わず、以下の条件に当てはまる個人や会社に対しても、税務調査が入りやすいとされています。

(1) 開業後3年が経過している

開業後3年が経過している場合、すべての個人や会社において税務調査が入る可能性が生じます。特に創業当初から多額の売上や利益を計上しているケースでは、税務調査が入る確率が増加します。最近はIT企業などで創業当初より業績好調な会社が少なくないですが、そうした会社が税務署の関心を集めるケースがあるようです。

(2) 事業所得の赤字が続いている

個人事業主などで事業所得の赤字が続いている場合、普通に考えれば税務調査が入る可能性は低いと考えられます。しかし、「不自然な赤字」が続いている場合、支出の妥当性などを確認するために税務調査が入る可能性があります。特に、売上は相応に大きいのに微妙な水準での赤字が続いている場合などはチェックされる可能性があります。

(3) 収益構造が大幅に変化している

収益構造が大幅に変化しているケースで、特に売上が増加しているケースも税務調査が入る可能性があります。例えば、建設業が本業の会社が太陽光発電事業に業態転換し、大きな売上をあげたといった場合に税務調査が入る可能性があります。

(4) 税務署からの照会に回答していない

通知書や電話などによる税務署からの照会に対して、当該個人や企業はそれに回答する必要があります。税務署からの照会に回答していない、特に消費税や法人税などの納税に関する照会に回答していない場合、税務署の職員に「訪問」される可能性が生じます。また、税務署からの照会に回答しないと、国税通則法により1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される可能性が生じます。

4.税務調査に臨む心構え

では、実際に税務調査が入ることになった場合、どのように臨むべきでしょうか。以下にポイントを挙げます。

事前準備

(1) 過去に税務調査を受けている場合は、その時の指導事項と是正措置を確認する

まず、過去に税務調査を受けている場合は、その時の指導事項と是正措置を確認することが重要です。さらに、それぞれが現時点までに正しく行われているかを確認し、行われていない場合は速やかに従う必要があります。

(2) 通常の取引の流れを説明できるようにする

また、調査官に対し、通常の取引の流れを説明できるようにすることも重要です。売上の入金記録や仕入記録などの取引にかかる数字の根拠も合わせて準備し、調査官の質問に速やかに答えられるようにしておきましょう。

(3) 現金残高が合っていることを確認する

また、すべての現金残高が合っていることを確認することも重要です。預金通帳や現金出納帳などを用意し、実際の残高と突合するとともに、ネット銀行の口座などにもすぐにアクセスできるようにしておきましょう。

(4) 期末の勘定科目の数字が正しいか確認する

また、総勘定元帳と共に期末の勘定科目の数字が正しいか確認することも大切です。特に在庫などの期末残高は念入りにチェックされる可能性があるので、実際の棚卸と突合するなどして正確性を確保して下さい。

(5) オーナーの私的経費と見なされる費用がないか確認する

特にオーナー企業の場合、オーナーの私的経費と見なされる費用がないか確認しておきましょう。費用がオーナーの私的経費と見なされる費用があれば、オーナーへの立替金や貸付金に振り替えるなどして事前に対応しておきましょう。

(6) 事務所を整理整頓しておく

税務調査の当日までに、調査官がスムースに調査をできるよう事務所を整理整頓しておきましょう。帳簿類などはわかりやすい場所に置き、求めに応じていつでも出せる状態にしておきましょう。

(7) 顧問税理士に立会を依頼する

税務調査の当日は、顧問税理士に立会を依頼しましょう。在庫や費用などの争点になりやすい科目などについては事前にすり合わせを行い、当日に備えるようにしましょう。可能であれば顧問税理士と想定問答などを行い、スムースに回答できるようにしておきましょう。

調査官への対応

税務調査当日の調査官への対応ですが、特別に気を使う必要はありません。普段通りの姿で普段通り接し、質問などに正直に答えれば問題ありません。隠し事をしたり、つじつまの合わないようなことを言わず、普通にやりとりすれば大丈夫でしょう。

一方で、経営者の中には調査官に対して対決的な姿勢で臨まれる方がまれにおられます。仏頂面で、挑発的な態度で臨んだとしても得になることはひとつもありません。調査官も人の子ですので、自分に友好的な人と自然なやり取りをする方が、気持ちよく仕事が出来ることでしょう。

5.まとめ

以上、税務調査とは何か、任意調査と強制調査の違い、税務調査の流れと対応法などについて説明しました。税務調査が入ることが決まると、多くの経営者は不安を感じ、不安定な心の状態で当日を迎える人が多いでしょう。しかし、税務調査の直前にバタつくのではなく、日頃から経営の内容をこまめにチェックする習慣を身に着け、いつ税務調査が入ってもスムースに対応できるようにしておくことで問題なく税務調査をクリアできます。

やましいことをせず、透明性の高い経営を実践し、正々堂々と税務調査に対応する。そのような状態を目指して日々の仕事をこなしてゆきたいものですね。

参考:国税庁ホームページ「税務調査手続きについて」

執筆者:前田 健二(まえだ けんじ)

大学卒業と同時に渡米し、ロサンゼルスでビジネスを立ち上げる。帰国後は複数のベンチャー企業のスタートアップ、経営に携わり、2001年、経営コンサルタントとして独立。事業再生、アメリカ市場進出、コンテンツマーケティングなどを中心に指導を行っている。米国でベストセラーとなった名著『インバウンド マーケティング』(すばる舎リンケージ)の翻訳者。明治学院大学経済学部経営学科博士課程修了、経営学修士。