発起人とは/会社設立後のことも考える必要あり

株式会社を設立する際、その中心人物として動く人を発起人(ほっきにん)といいます。つまりあなたが会社を作ろうとする場合、通常はあなたが発起人になります。発起人は会社設立における重要な権限と責務を負うため、もしいい加減な設立行為を許せば、株主や債権者など多くの関係人に不利益が及ぶでしょう。そこで、会社法では、そのような被害を未然に防ぐため、発起人の権限や責任範囲を明確かつ厳格に規定しています。以下、発起人の役割や責任、選任の際の注意事項などについて、わかりやすく解説します。

1.発起人とは

発起人とは、定款に発起人として署名し、設立手続を実際に行う者をいいます。設立には、発起人が1人だけの「発起設立」と、複数で行う「募集設立」の2種類があります(会社法第25条)。発起人は事業内容を決める出資者であり、かつ、会社成立後には株主になります。

(1)発起人の役割

発起人の役割は、一言で言えば会社を設立することです。

その中身は大きく分類すると①定款の作成、②出資行為、③設立時役員等の選任及び解任の3つに分けられます[i]

  1. 定款とは、会社の根本規則です。定款の作成や申請は、やや複雑に思えるかもしれませんが、法務局のウェブサイトにひな形[ii]がありますし、定款等を作成できるサービスを提供するサイト等もありますので、参考にされるとよいでしょう。
  2. 発起人は、少なくとも1株は株式を引き受けなければなりません(会社法第25条第2項)。そして、所定の金融機関口座(たいていは発起人自身の口座ですが)にその出資金全額を振り込む必要があります(同第34条)。たとえば車など金銭以外の財産による現物出資や、会社設立後に特定の財産を譲り受ける財産引受などによる出資もできますが(同第28条第1号第2号)、より不正がおこなわれやすいため、条件は厳しくなります。
  3. 出資金の払い込みが終わったら、条件に応じ、最低1人または3人以上の取締役の選任が必要になります(会社法第38条)。その他、必要に応じて監査役や会計監査人などの選任もしなければなりません(同第39条)。
    [i] 会社法第2編第1章第2節~第4節
    [ii] 法務局 株式会社設立登記申請書

(2)発起人の責任

設立にまつわる発起人の責任は、①会社が成立した場合と②不成立に終わった場合に分かれます。

  1. 会社が成立しても、もし原資調達に不正があれば、会社債権者や他の株主には相応の損害が発生します。そこで、このような場合、所定の出資額を装って不正を行なった発起人は、原則としてその不足額を支払わなくてはなりません(会社法第52条、第52条の2)。
    また、その他、本来行うべき任務を怠った場合には会社に対し損害賠償義務を、場合によっては第三者に対しても連帯して損害賠償責任を負うことがあります(同第53条、第54条)。
  2. 会社設立が途中で挫折し設立登記に至らなかった場合も、発起人は、設立に関する行為につき連帯して責任を負います(会社法第56条)。

以上ように、発起人には設立に際して厳しい責任が課せられているのです。

(3)発起人の要件

発起人は最低1人以上必要です。言い換えれば、1人いれば会社を設立できるということです。また、それ以外の人数制限もないので、多くの資金を集めるために多数の発起人を募集することもできます。

さらに、法律上発起人の資格に特に制限は定められていないため、必ずしも自然人である必要はなく、法人であっても行為無能力者であっても発起人になることはできます。

では、未成年者を発起人にすることはできるでしょうか。一応、未成年者でも発起人になることは可能ですが、法律行為を行うためには原則として親権者による同意が必要です(民法第5条)。また、設立に際して発起人には実印や印鑑登録証明書が必要になるところ、15歳未満は基本的に印鑑登録ができませんので、現実的には厳しいでしょう。

2.発起人と取締役の違い

そもそも通常、会社が成立すると発起人は株主(所有者)になり、設立時取締役は取締役(経営者)になる点で、発起人と取締役は全く異なる機関です。もちろん、一人会社などで発起人と取締役を同一人が担う場合もありますが、厳密には両者は異なる役割や責任を負うと考えてください。

3. 発起人を決めるときの注意事項

先にも説明した通り、発起人は原則として誰でもなることができます。しかし、今まで見てきたように、発起人は会社設立に関しては中心的役割を果たし、かつ、会社成立後は株主となって会社の意思決定を行うのですから、適当に選んでしまっては後悔することになりかねません。誰を選ぶかは、事業運営に際し自分と同じ気持ちや方向性でやっていけるかどうかが重要になってくるでしょう。

特に、発起人が複数いる場合、各発起人にはその出資額に応じた株式が割り当てられますが、この株式の割合に基づいて会社の意思を決定する権限も決まるので注意が必要です。すなわち、株主総会の決議には、原則として有効議決権の過半数をもつ株主が出席し、さらにその議決権の過半数による賛成が必要になりますが、特別に重要な決議事項の場合、これが3分の2以上必要になります(会社法第309条)。つまり、単なる人数による多数決ではなく、持株比率が重要な鍵を握るのです。したがって、発起人同士で意見が異なる場合、持株比率によっては、将来、自分の思うような運営が行えなくなるリスクがあることを忘れないでください。

4.まとめ

以上見てきたように、発起人の選定は、会社設立時のみならず、その後の経営にも関わってくる重要事項です。そこで、一人では心もとないからとか、出資額を増やそうなどといって安易に選んだりせず、慎重に選ぶ姿勢がとても重要でしょう。

執筆者:豊田 かよ(とよた かよ)

弁護士業、自治体子育て支援業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。