起業と社会保険/起業時に把握しておきたい社会保険のイロハ

社会保険について、会社員であれば保険料は給料から天引きされ、大半の手続きを会社が行ってくれるため、「よく分からない」という方もいらっしゃることでしょう。しかし、起業して個人事業主になったり、法人を設立した場合、自分や社員の社会保険の手続きはご自身でしなければなりません。本記事では、起業前に知っておきたい社会保険の基礎知識や、個人事業主と法人で社会保険にどのような違いがあるかなど、わかりやすく解説します。

1. 社会保険とは

病気、ケガ、事故、失業といった、生活に困難をもたらすさまざまなリスクは、誰しもに起こり得ます。社会保険とは、国民の権利である「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことができるよう、そうしたリスクに対し一定の給付を行い、生活の安定を図る社会保障制度のひとつで、強制加入が原則の公的保険です。
社会保険には、「医療保険」、「年金保険」、「介護保険」、「労働者災害補償保険」、「雇用保険」があります。

(1)  医療保険

病気やケガをしたとき、治療にかかる医療費の一部を国が負担してくれる制度です。個人事業主、フリーター、無職の方、その扶養者が加入する「国民健康保険」、会社員や公務員、その扶養者が加入する「健康保険」、75歳以上(寝たきりなどの場合は65歳以上)の方が加入する「後期高齢者医療制度」と、職業や年齢によって3種類に分かれています。

(2)  年金保険

高齢になったとき、老齢年金を受け取れる制度です。20歳以上60歳未満のすべての方が加入しなければならない「国民年金」のほか、会社員や公務員が国民年金と合わせて加入する「厚生年金保険」があります。

(3)  介護保険

寝たきりや認知障害など、介護が必要になったとき、必要度に応じた介護サービスなどが受けられる制度です。保険料の徴収は、40歳から始まります。

(4)  労災保険(労働者災害補償保険)

業務上や通勤途中の災害により、ケガや病気になってしまったり、亡くなってしまったとき、本人や遺族が必要な給付を受けられる制度です。保険料は全額事業主の負担となり、原則として、従業員を1人でも使用する場合は必ず加入しなければなりません。

(5)  雇用保険

従業員が失業したとき、生活や雇用の安定と再就職促進のために必要な給付を受けられる制度です。雇用形態や事業規模に関係なく、「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上の雇用見込みがある」の要件に該当する従業員は加入の必要があり、保険料は本人と使用者が支払います。

以上の5つが、一般的に「社会保険」といわれるものです。
会社員から独立して起業した場合、加入する医療保険や年金保険の種類が変わるほか、従業員を雇う際には、労災保険や雇用保険の加入についても手続きが必要です。

2. 個人事業主と法人の違い

社会保険の手続き内容は、個人事業主で開業するか、法人を設立するかによって異なります。それぞれのケース別にくわしく見ていきましょう。

(1)  個人事業主の社会保険

会社員から起業して個人事業主になった場合は、まず医療保険と年金の手続きが必要です。
医療保険は、原則「国民健康保険」に加入となり、退職日の翌日から14日以内に居住する市区町村役場で加入手続きを行います。手続きには、本人確認書類、個人番号確認書類、健康保険をやめた日付が確認できる書類(健康保険資格喪失証明書、退職証明書など)といった書類が必要となります。事前に、各市町村のホームページで確認するようにしましょう。

ちなみに、国民健康保険に加入するほか、以下の選択をすることも可能です。
・会社員時代の健康保険に「任意継続被保険者制度」で引き続き加入する。(最長2年間)
・会社員の配偶者の健康保険に、扶養家族として加入する。(年収など要件あり)

そして、年金保険は「国民年金」への切り替えが必要です。国民健康保険と一緒に市区町村役場で手続きを行う、もしくは年金事務所で手続きすることもできます。切り替えには、本人確認書類、個人番号確認書類、年金手帳、退職を証明する書類(健康保険資格喪失証明書、抵触証明書など)が必要ですが、こちらもお住まいの市区町村のホームページで事前確認をした方が安心です。

また個人事業主であっても、常時5人以上の従業員が働く事業所や商店などの場合は、法人と同様の「健康保険」「厚生年金保険」の加入が法律で義務付けられています。次に説明する「法人の社会保険」を参考に手続きを行いましょう。

(2)  法人の社会保険

起業して法人を設立した場合は、「健康保険」、「厚生年金保険」への加入が必須になります。(役員報酬がゼロ円の法人は、個人事業主と同じ「国民健康保険」「国民年金」に加入)

所轄の年金事務所へ、事業主として「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出するほか、ご自身やご家族(被扶養者がいる場合)の健康保険、厚生年金保険加入の手続きなども忘れずに行いましょう。

個人事業主、法人、どちらの場合も、介護保険については特にしなければならない手続きはありません。

また従業員が1人でもいれば労災保険、5人以上いるなど要件を満たす場合には雇用保険の加入が必須となりますので、手続きを忘れぬよう十分に注意してください。労災保険、雇用保険は従業員のための保険で、事業主は原則加入できませんが、労災保険には「特別加入」という制度があり、加入条件がマッチすれば事業主でも加入できます。起業前に、厚生労働省ホームページでチェックしてみることをおすすめします。

【労災保険への特別加入について(厚生労働省ホームページ)】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu.html

まとめ

社会保険の基礎的な知識や、個人事業主、法人の場合の手続きについてご紹介しました。いざ起業したときに慌てることのないよう、それぞれの保険について要件や必要書類などを事前に調べておくと安心です。「自分で手続きするのが難しい」、「こういう場合はどうすれば?」というときは、社会保険労務士など専門家に相談してみるのもよいでしょう。

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。