一般社団法人の設立/特徴と設立手順を解説

起業して事業を法人化するというと、「株式会社」をイメージする方が多いかもしれませんが、株式会社以外にも法人格にはいろいろな種類があります。その一つが「一般社団法人」です。一般社団法人は登記をするだけで設立でき、事業内容の制限もないため、起業を考えるなら必ず知っておきたい法人の形態です。本記事では、一般社団法人の特徴から、設立の手順や費用、設立後にすべきことまでわかりやすく解説します。

1. 一般社団法人とは?

一般社団法人は、2006年の公益法人制度改革により、新しく設けられた法人格です。

旧制度にも民法に基づいた「社団法人」がありましたが、事業に公益性(広く社会一般の利益に寄与すること)が必要で、管轄官庁の設立許可を得なければならないなど、簡単には設立できないものでした。

新制度での社団法人は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき、主に公益事業を行う「公益社団法人」と「一般社団法人」に二分化。一般社団法人については、事業の公益性の有無に関わらず、一定の手続きと登記を行えば誰でも設立が可能です。官庁の許可も不要で、簡単に法人格を得ることができます。

株式会社や合同会社(LCC)などの“営利法人”に対し、一般社団法人はNPO法人などと同じ“非営利法人”に区分されます。
“非営利”という言葉から、「一般社団法人ではもうけを出せない?」、「ボランティアで活動しなければならない?」などと思われがちですが、これは誤った解釈です。

一般社団法人においての“非営利”は、「利益を追求しない」のではなく、「剰余金や残余財産の分配を目的としない」という意味です。したがって、事業で利益を出すことはもちろん、その利益を活動資金に充てたり、社員や役員が適正な報酬を受け取ったりすることも全く問題ありません。

「事業の公益性が問われない」、「登記を行うだけで簡単に設立できる」、「分配はできないが、利益を上げることは可能」といったこと以外にも、一般社団法人にはさまざまな特徴があります。さらに見ていきましょう。

事業の内容は自由
一般社団法人の行える事業は、公益性を問われないだけでなく、事業内容そのものに制限がありません。たとえば、町内会や高齢者の見守りサークルなどの公益性のある活動のほか、資格認定、地域振興などの収益事業も含めて幅広い活動を法人化できます。

2人以上で簡単に設立できる
一般社団法人は、団体の構成員となる「社員」が2人以上集まれば設立できるので、「まずは少人数で事業を始めたい」という方にも向いています。個人に限らず、法人でも社員になることができます。

少ない資金で設立できる
一般社団法人の設立時には、株式会社でいう資本金のような出資は不要です。つまり、まとまった資金がなくても法人を設立できるのです。設立後の運営資金は、「基金」という制度を利用して、社員や外部から調達するという方法もとれます。

行政からの監督を受けない
一般社団法人には監督官庁がないため、業務や運営に関して行政から監督を受けたり、行政へ事業報告をしたりする必要はありません。

資金調達面では注意しなければならないことも!
起業時によく使われる資金調達手段は、日本政策金融公庫からの融資と信用保証協会から保証を得たうえでの民間金融機関からの融資です。このうち、後者については一般社団法人が保証の対象外となることが少なくありません。
保育園など公益性が高くかつ多額の資金を必要とする業種は一般社団法人での運営を考えがちですが、貴重な資金調達ルートを失うことにもなりかねないため、金融機関からの融資に詳しい専門家に意見を求めながら慎重に判断するようにしましょう。

2. 一般社団法人設立の手順

前述の通り、一般社団法人は一定の手続きと登記をすれば簡単に設立できます。実際にどのようなプロセスを踏めばよいのか、法人設立までの流れをご紹介します。

1)2名以上の社員の確保
まずは法人設立に必要な2名以上の社員を集め、その中から1名以上の理事を選任しましょう。もし設立後に人数が減ってしまっても、社員が0名にならなければ法人を解散することなく存続できます。

2)定款の作成
法人に関する基本事項などを定めた定款は、設立時に社員となる2名以上が共同して作成します。紙ベースの定款以外に、CD-Rなどで作成した電子定款での作成も可能です。一般社団法人の定款に必ず記載しなければならない、7つの事項をご紹介します。

  • 目的
  • 名称
  • 主たる事業所の所在地
  • 設立時社員の氏名又は名称及び住所
  • 社員の資格の得喪に関する規定
  • 公告方法
  • 事業年度

上記のほかにも、法人運営に必要な事項を定款に定めることができますが、「社員に剰余金や残余財産の分配を受ける権利を与えること」など、定款に記載しても無効となる事項がいくつかありますので注意しましょう。

3)公証人による定款の認証
作成した定款は、公証役場にて公証人の認証を受けることで、正当な手続きによって作られたものだと証明されます。認証のない定款では、登記申請ができませんので必ず行いましょう。

4)登記申請
法人の代表者理事または理事(委任も可能)が、「主たる事務所の所在地」を管轄する法務局にて、設立の登記申請を行います。申請には、一般社団法人設立登記申請書、公証人の認証を受けた定款、理事の印鑑証明書といった複数の書類や、法人の代表社印(法人の実印)などが必要です。事前によく確認しましょう。

以上のプロセスを経ることで、一般社団法人を設立できます。
「法務局で登記申請を行った日=法人の設立日」となりますが、登記が完了するまでには数週間程度かかります。法人の登記事項証明書や印鑑証明書などを取得できるのは、登記完了後からとなることに留意しましょう。

3. 一般社団法人の設立費用

まとまった資金がない場合でも設立できる一般社団法人ですが、設立の手続きには手数料などが必要となります。実際、何にどのくらいの費用がかかるのか、以下にまとめました。

【一般社団法人設立に最低限かかる費用】

定款の認証を受けるとき(公証役場)
約52,000円(定款認証手数料:50,000円、発行手数料:約2,000円)

登記申請を行うとき(法務局)
60,000円(登録免許税)

合計:約112,000円
※そのほか、印鑑証明書の発行手数料(1通あたり約300円)や、登記申請の際に法務局へ届け出をする「法人の代表者印」を作成するための代金なども必要です。

以上のように、一般社団法人の設立には「約12万円」かかります。
ちなみに株式会社の設立費用は、登録免許税だけでも15万円かかり、合計で「約24万円」と別途で資本金も必要になります。株式会社と比べると、一般社団法人の方が少ないコストで設立することができます。

4. 一般社団法人設立後にすべきこと

晴れて法人を設立できたら、税務や社会保険などの手続きをしなければなりません。期限に間に合うよう、登記完了後すみやかに行いましょう。

税務署、都道府県・市区町村へ法人設立届出書の提出
法人設立の日(登記申請日)から2カ月以内に、「法人設立届出書」を管轄の税務署と法人所在地のある都道府県・市区町村へそれぞれ提出します。認証済みの定款の写しなど、添付書類の確認をお忘れなく。収益事業を行う場合は、「収益事業開始届出書」などの提出も必要です。税務関係の書類は国税庁、役場関係の書類は各役所のホームページからダウンロードできる場合がありますので、確認してみましょう。

社会保険への加入
一般社団法人は、株式会社などと同じように、従業員数に関係なく社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務があります。年金事務所などへ必要書類を提出しましょう。従業員を雇用した場合には、ハローワークへの届け出も必要となります。

まとめ

一般社団法人は、比較的簡単な手続きと少ない費用で立ち上げることができ、設立のハードルがそれほど高くない法人形態です。事業内容の自由度が高いところも魅力といえるでしょう。法人格の取得によって、社会的信用度も高まります。事業の法人化を検討する際は、ぜひ「一般社団法人」を選択肢の一つとして考えてみてください。

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。
お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。