36協定とは/経営者なら押さえておくべきこと

長時間労働や正規非正規格差問題をはじめとする各種労働問題は近年活発に議論されています。その解決に向け、働き方改革関連法案の一部が2019年4月1日より順次施行されるなど、これまでの働き方は大きく見直されはじめています。本記事では特に時間外労働を制約する制度である「36協定」及びその改正点について説明します[1]

 

1、時間外労働、休日労働とは

(1) 所定労働時間と法定労働時間

まず押さえておきたいのは、労働時間には所定労働時間と法定労働時間がある点です。

 

労働基準法によれば、使用者は原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません[2]。これは法が定めていることから「法定労働時間」といいます。

 

これに対し、法律と関係なく、労使間の契約上決められている就労時間を所定労働時間といいます。いわゆる「残業」というと、所定労働時間のことを指すことが多いですが、法律上の「時間外労働」というのはあくまでも「法定労働時間」を超える場合を指します。

 

(2) 法定労働時間

① 1日および1週間の労働時間

前述の通り、使用者は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけませんが、例外的に、10人未満の商業、映画、演劇業、保健衛生業、接客娯楽業ではその上限が1週間44時間まで延長されています[3]

 

② 休憩

また、使用者は、労働時間が6時間を超える場合には45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければなりません。そして、その休憩は原則として一斉かつ自由に取らせる必要があります[4]

 

これらの規定に違反した場合、使用者には6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という厳しい罰則規定もあります[5]

 

③ みなし労働時間制

ところで、業態上、労働時間の算定が難しい場合もあります。そのような場合、実際に働いた時間とは関係なく一定時間働いたとみなすのが、みなし労働時間制です。みなし労働時間制には、以下の3つの種類があります。

 

ア)事業場外みなし労働時間制[6];訪問先など事業場の外(社外等)で労働する場合で労働時間の算定が困難な場合、原則として所定の労働時間を労働したものとみなす制度(具体的な計算方法等の詳細は厚生労働省 事業場外労働のみなし労働時間制 参照)。

 

イ)専門業務型裁量労働制[7];デザイナーやシステムエンジニアなど、業務遂行の手段や時間配分などに関して使用者が具体的な指示をしない19の業務につき、実際の労働時間とかかわりなく労使協定で定めた労働時間労働したものとみなす制度。

 

たとえば、コピーライターやゲーム用ソフト開発、税理士や建築士などがあげられます(詳細は厚生労働省 専門業務型裁量労働制 参照)。

 

ウ)企画業務型裁量労働制;事業運営の企画、立案、調査及び分析を行う業務で、業務遂行手段や時間配分などに関して使用者が具体的な指示をしない業務につき、実際の労働時間とかかわりなく

あらかじめ労使間で定めた労働時間数を労働したものとみなす制度。

 

たとえば、経営企画や営業企画、人事、労務担当者などがあげられます(詳細は厚生労働省 企画業務型裁量労働制 参照)。

 

(3) 通常とは異なる労働時間の定め方

このように労働時間については厳しい原則がありますが、業種によっては月末や期末に繁忙期がきたり、逆に閑散期があったりするなど、常時一律に労働時間を定めると、どうしても法定労働時間を守れなくなってしまう場合があります。

 

そのため法律上、以下のように通常と異なる変則的な労働時間制を定めることが認められています。

 

① 変形労働時間制

変形労働時間制とは、労使協定や就業規則により、労働時間を1日単位ではなく月や年単位など別の期間に区分して計算する制度です。この制度上は、一定期間を平均して、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内においては、特定の日または週に、法定労働時間を超えて就労させてもただちに違法とはなりません[8]

 

たとえば、1年間を平均して労働時間を1週40時間の範囲に収めれば、その間に40時間を超える週や8時間を超える日があったとしても、時間外労働とはならないのです。

 

② フレックスタイム制[9]

フレックスタイム制を導入する場合は、一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、その期間における総就労時間を定め、その範囲内で始業・終業時刻を労働者がそれぞれ自主的に決定できます。

 

(4) 法定休日と時間外労働

使用者は労働者に対し、週に1回以上または4週間を通じて4日以上の休日を与える必要があります[10]。これを「法定休日」といいます。法律上の「休日労働」とは、これら法定休日に労働させることをいい、原則違法ですが、労使間で決めた「所定の休日」に労働した場合はこれに該当しません。

 

法定労働時間の上限を超えて労働させることや、法定休日に労働をさせることは本来違法ですが、後述のように、あらかじめ労使間で協定を締結し、それを所轄の労働基準監督署に届け出る場合、一定の条件下では例外的に認められており、これを「時間外労働」「休日労働」といいます。

 

2、36協定とは

(1) 36協定を届け出る義務

前述のように、法定労働時間を超えて時間外労働をさせるには、使用者と労働者の間で協定を結び、それを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。これを規定するのが労働基準法第36条であることから、この協定は「36協定」と一般に呼ばれています(36協定で留意すべき事項に関する指針 厚生労働省)。

 

なお、みなし労働時間が1日8時間の法定労働時間制限を超える場合も、やはり通常の一般労働者同様、36協定によりその上限変更を届け出る必要があります。

 

36協定届には、時間外労働をさせる必要がある具体的事由(「臨時受注」や「製品不具合への対応」等)を事業所ごとに記載する必要があります。また、延長することができる協定期間の起算日および「1日」「1か月」「1年」のそれぞれについて時間外労働上限時間を記入してください(参考:厚生労働省 時間外労働の上限規制

 

36協定は書面で行う必要がありますが、その届出は電子申請も可能です[11]。具体的な記載例は厚生労働省 36協定届の記載例 に掲載されているので参考にしましょう。厚生労働省「スタートアップ労働条件 36協定届等作成支援ツール」でも届出書面を作成できます。

 

(2) 36協定は誰と締結するのか

36協定は、使用者と労働組合、労働組合がない場合には労働者の過半数の代表者とで締結します。

この過半数代表者を選任するにあたっては、以下の点に注意が必要です。

 

① 管理監督者でないこと

② 36協定を締結する者を選出することを明らかにしたうえで、投票や挙手などの方法で選出すること

③ 使用者の意向に基づいて選出された者でないこと

 

参考:厚生労働省 時間外労働の上限規制

 

(3) 36協定の特別条項とは

36協定で延長できるとはいえ、無制限に時間外労働を許してしまうと結局長時間労働の是正になりません。そこで、これにも上限が定められました(表1参照)。

 

この上限は働き方改革に伴う法改正で罰則付きで新たに規定され、2019年4月から大企業に、そして2020年4月からは中小企業にも適用されています。

 

しかし、業種や職種によっては著しい繁忙期や、緊急対応が必要など、どうしても上限基準を守り切れないときもあるでしょう。

 

そこで、臨時的な特別の事情がある場合に限り「特別条項付き」36協定を結ぶことで、例外的にこの上限をさらに超えた時間外労働が可能になります。そして、これについても所轄の労働基準監督署への様式書類の提出が必要です(36協定届の記載例 特別条項 厚生労働省)。

 

◇ここでいう「臨時的な特別の事情がある場合」はできるだけ具体的に定めなければなりません。したがって「業務の都合上必要がある場合」などでは足りず、たとえば「予算決算業務」や「納期のひっ迫」「リコール対応」「機械等のトラブル対応」など具体的な必要性の記載が必須です。

参考: 36協定届の記載例 特別条項 厚生労働省

参考:厚生労働省 時間外労働の上限規制

 

◇特別条項を定める場合の注意点

特別条項は36協定のさらなる例外ですから、簡単には認められません。以下のように罰則つき制限が課せられているのでご注意ください。

 

① 限度時間を超えて労働させることができるのは、臨時的な特別の事情がある場合のみ

② 時間外労働は法定休日労働を除き年間720時間以内

③ 時間外労働+休日労働の合計はどの2~6か月の平均をとっても月あたり80時間以内

④ 時間外労働と法定休日労働時間の合計は月100時間未満

⑤ 月45時間の例外上限延長の回数は年間6回まで

 

なお、経過措置として、建設事業や自動車運転業務など、特定の事業・業務については上限規制の適用が2024年まで猶予されています[12]

 

3、働き方改革関連法と36協定

働き方改革関連法により、36協定も以前より制限が厳しくなっています。たとえば従前は労使が合意さえしていれば36協定の特別条項に上限はなく、事実上無制限の残業が可能になっており、その点が問題となっていました。

 

しかし、2020年4月(大会社については2019年4月)以降、時間外労働と休日労働の上限規制が導入され、また、時間外労働に罰則付き上限が設けられるなど、長時間労働是正に向け国が本腰を入れ始めたことが分かります。

 

4、まとめ

たとえ36協定や特別条項により時間外労働を増やすことができたとしても、長時間労働により労働者が体調を崩すような事態はできるだけ避けなければなりません。そのためにも、日ごろから自社の労働環境を具体的に把握し、少しでも不安な点は専門家に相談するなどして早めに問題に対処しましょう。

 

豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。

[1] 参考:厚生労働省 労働基準法関係

[2] 労働基準法第32条

[3] 労働基準法第40条

[4] 労働基準法第34条

[5] 労働基準法第119条

[6] 労働基準法第38条の2

[7] 労働基準法第38条の3、第38条の4 (労働基準法第38条の4)

[8] 労働基準法第32条の4

[9] 労働基準法第32条の3, 労働基準法施行規則第12条の3

[10] 労働基準法第35条

[11] 36協定届と36協定はあくまでも別なので、届出で電子申請などを利用した場合でも、36協定には過半数労働組合または過半数代表者による署名・捺印が必要(厚生労働省 時間外労働の上限規制

 

[12] 厚生労働省 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 p7