就業規則を作る/変更時の留意点なども解説

1、就業規則とは

就業規則とは、簡単にいえば会社内のルール、すなわち職場の規律や労働条件などを定めたものです。就業規則の作成は法律上すべての会社に義務付けられているわけではありません[1]が、会社の円滑な運営やトラブル防止、労働者の管理のためには、就業規則を作成しておくことは大変有用です。本記事では就業規則の作成ポイントや変更時の注意点などについて解説します。

 

2、就業規則作成のポイント

◇ 就業規則作成・届出の義務があるかどうか

労働基準法第89条 により、常時10人以上を使用している事業場には、就業規則の作成・届出義務が課されており、その義務違反があった場合には罰則の適用があります[2]。そこで、まず、自分の会社が 労働基準法第89条により就業規則の作成・届出義務を課される使用者に当たるかどうかは理解しておいたほうが良いでしょう。

 

第1に、ここにいう「常時10人以上」という要件は、「常に10人以上出勤していることが必要」というわけではなく、入れ替わり立ち替わりがあってもおおむね10人以上雇っている場合に該当します。

 

第2に、これは事業所単位で換算されます。つまり、A支店とB支店があるとき、各支店の常時雇用人数がたとえば6人と8人だとすると、合計すれば10人にはなりますが、各支店単位では10人に満たないので、「常時10人以上」の要件には当たりません。逆に、各支店に10人以上存在する場合は、それぞれの支店ごとに就業規則を作成し、かつ、それぞれ所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。

 

第3に、「労働者」とは、使用者の指揮・命令のもとに働き、その労働の報酬として賃金を受け取る者[3]をいい、正社員だけでなく、パートやアルバイトなども含みますのでご注意ください。

 

ただ、名実ともに独立した「委任」や「請負」の立場にある者や、派遣会社から派遣された者はこの「労働者」には含まれません。労働者とは、労働者の地位役職名ではなく、その労働形態の実質から判断されるのです。

 

◇法律上の義務はなくても就業規則は作ったほうが良い

なお、以上の要件にかんがみて、就業規則作成義務がないと判明した場合でも、就業規則は作成することをお勧めします。

 

なぜなら、就業規則というルールが明確になっているからこそ使用者と労働者で共通の認識を持つことができますし、無用なトラブルを防止しやすくなるなど、円滑な企業運営が可能になるからです。

 

以上を前提に、法律上就業規則の作成届出義務がある場合の、就業規則作成ポイントをみてみましょう。

 

(1) 就業規則の記載事項

まずは就業規則にどのようなことを記載する必要があるのか、以下の表1をご覧ください。

 

就業規則には、a)必ず記載しなければいけないこと(絶対的記載事項)と、b)取り決めたからには記載が必要なこと(相対的記載事項)があります(厚生労働省 就業規則を作成しましょう1、就業規則に際する事項 )。

厚生労働省では、詳しいモデル就業規則とその解説を公開していますので参考にするとよいでしょう(モデル就業規則(令和2年11月))。

 

就業規則の作成・届出の流れ

① そもそも就業規則を定める際、労働者がその内容を知らないというのは問題です。そこで、就業規則を定める際には、必ず労働者の過半数代表者の意見を聞くことが義務付けられています(労働基準法第90条第1項)。

 

② そして、当該過半数労働者代表者による意見書を添付し、その就業規則を所轄の労働基準監督署に届け出なくてはなりません(第89条、第90条)。

 

③ 就業規則を周知する

最後に、そうして完成し届け出た就業規則は、作業場の見やすい場所に掲示するなど、適切な方法で労働者に周知しなければなりません(労働基準法第106条)。具体的には、以下のa )~c )の3つの方法のうちのいずれかとされています[4]

 

a )常時作業場の見えやすい場所に掲示または備え付ける

b )書面で配布する

c )デジタルデータとして記録保存し、従業員はいつでもその情報にアクセスできるようにする

 

参考;厚生労働省 就業規則を作成しましょう 「4、就業規則の周知」

 

(2) 就業規則の法的効力

◇就業規則は、法令や労働協約に違反してはならない。

 

就業規則が法令や労働協約に違反した場合は、その違反部分に限って無効となります(労働基準法第92条)。また、法令や労働協約に反する就業規則は、労働者に適用されません(労働契約法第13条)。これらの条文によれば、就業規則よりも法令や労働協約のほうが優位に立つことが分かります。

 

では、そもそも就業規則は、労働法、労働協約や労働契約とどう違うのでしょうか。まずは以下表2「就業規則の効力」をご覧ください。

 

まず、労働法は、労働基準法、労働組合法、最低賃金法など、労働に関係する法律の総称です。こちらは他の3つよりも優位性が高くなります。

 

労働協約は、労働組合と使用者との間で結ばれる合意で、その優位性は労働法よりは低いが、就業規則よりは高くなっており、原則として組合に加入していない労働者には適用されません。(参考 労働契約法のポイント 厚生労働省 )。

 

これに対し労働契約は、使用者と労働者が個別に締結するもので、就業規則が使用者と労働者との間に集合的に適用される点で両者は異なります。また、原則として、個別の労働契約は就業規則よりは優位性が低くなります。

 

就業規則を定める際は、労働法や労働協約などに違反しないように注意する必要があります。

 

◇労働契約に定めがない部分は就業規則がその内容をカバーする

労働契約法第7条本文 によれば、原則として①使用者と労働者が詳細な労働条件の詳細を定めずに労働契約を締結した場合において、②合理的な内容の就業規則を、③労働者がいつでも見られる状態で周知していた場合には、就業規則で定める労働条件が、そのまま労働者の労働条件になります[5]

 

もちろん、労使双方が、就業規則とは異なる内容の労働条件を個別に合意した場合は、原則としてその労働契約内容が労働者の労働条件になります(労働契約法第7条但し書き)。

 

◇就業規則は労働条件の最低ラインを示す

就業規則で定めた基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となります[6] (労働基準法第93条 , 労働基準法第12条)。そのようにして無効となった労働条件は、就業規則の基準まで引き上げられます。

 

たとえば、就業規則で「雇入れ後3年6か月」の場合の有給休暇の年間日数を「15日」と規定しているのに、個別の労働契約でこれを「14日」と定めることは原則としてできず、この場合、有給休暇日数は就業規則と同じ「15日」になるのです。

 

参考;厚生労働省 労働契約法のポイント

参考;厚生労働省 就業規則を作成しましょう

 

3、就業規則を変更する際の留意点

(1) 就業規則変更の流れ

では、就業規則を変更する際の流れに関する留意点をみましょう。この点、就業規則作成時と同様に、就業規則の変更時にも、過半数労働者代表者の意見を聞き、さらにそれを所轄の労働基準監督所に届け出る際にはその意見書を添付することが必要になります(労働基準法第89条、第90条)。

 

さらに、労働者への周知義務がある点も同様です(労働基準法第106条)。

 

参考;厚生労働省 就業規則を作成しましょう 「4、就業規則の周知」

 

(2) 就業規則を不利益な労働条件に変更する場合

① 原則として、労働者の同意を得ずに、就業規則を一方的に不利益な内容に変更することはできません(労働契約法第9条[7]

 

② ただし、労働条件を不利益に変更することについて合理的理由がある場合は例外的に認められます(以上参考;広島県商工労働局 わーくわくねっとひろしま )。

 

③ その場合も、「合理的な理由」のある不利益変更をした就業規則を「周知」しなければなりません(労働契約法第10条)。

 

ここにいう「合理的理由」の有無は、労働者が被る不利益の程度や、使用者側の就業規則変更の必要性、従業員代表者や労働組合との交渉の経緯などの諸事情について、各事案に応じて総合的に判断されることになります(労働契約法第10条)。

 

参考; 厚生労働省 就業規則を作成しましょう )

参考; 労働契約法のポイント 厚生労働省

参考; 広島県商工労働局 わーくわくねっとひろしま

 

4、まとめ

就業規則作成及び届出義務がある場合、各法令により条件が規定されていますので、法律違反になることがないよう専門家などに相談しながら作成すると良いでしょう。

 

また、法律上の作成義務がなくても、会社の利益を守るため、また、円滑な運営のため、やはり専門家に相談のうえ、就業規則を作成しておくことをお勧めします。

 

豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。

 

[1] 労働基準法第89条 常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成などが義務付けられる。

[2] 労働基準法第120条、第89条

[3] 参考 労働契約法第2条第1項

[4] 労働基準法施行規則第52条の2

[5] 就業規則の契約内容補充効

[6] 就業規則の最低基準効

[7] もちろん労働者と使用者の合意があればそのような変更も可能です(労働契約法第8条