ガバナンスとコンプライアンス/より良い経営に向けて

「ガバナンス」と「コンプライアンス」、それぞれどのような意味なのかご存じですか? 何となく知っていても、「人に聞かれたとき、説明できるほどではない…」という方も多いのではないでしょうか。

 

どちらも、健全でより良い経営を目指すために、必ず理解しておきたい言葉です。本記事では、ガバナンスとコンプライアンスの基礎知識から、両者の関係性、事業のガバナンスを強化するメリットや留意点まで、わかりやすくご紹介します。

 

 

1.ガバナンスとコンプライアンス

まずは、「ガバナンス」と「コンプライアンス」がそれぞれどのようなものなのか、ひもといてみましょう。

 

(1)ガバナンスとは

ガバナンス(governance)には、日本語で「統治」「支配」「管理」などの意味があります。特に、企業においてのガバナンスは「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」といわれ、

 

・経営を適切に進めていく方針やルールなどの構築

・それらに則って業務が進められているかの管理

・業務上起こりうるリスクの軽減

 

といった健全な企業経営を実現するために必要な管理体制、監査や監督を行う内部統制のしくみを、企業自身で作り上げていくことを指します。

 

企業経営には株主、顧客、地域社会といったステークホルダー(利害関係者)との関わりが欠かせません。

 

例えば、

 

・社内の法令違反や不祥事、不正を防ぐためのしくみを作る

・リスクマネジメントの担当部署を設置する

・第3者の目で経営を監視する社外取締役などを設置する

 

など、コーポレート・ガバナンスを強化することは、不祥事などの発生を抑えるだけでなく、ステークホルダーの信頼を得て、良好な関係を築いていくためにもとても重要です。

 

金融庁と東京証券取引所は、上場企業が行うコーポレート・ガバナンスのガイドラインとして「コーポレートガバナンス・コード」を策定しています。上場企業はこのガイドラインに沿って自社のガバナンス体制を構築し、取り組みに関する報告書を開示することになっています。

 

あくまでガイドラインなので、法的拘束力や罰則などがあるわけではありません。しかし、コードに従わない企業には「コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)」の原則にのっとり、説明責任が発生します。

 

コーポレートガバナンス・コードの対象外ではありますが、非上場企業においてもガバナンスの重要性は変わりません。自社の企業統治を進めるにあたり、コーポレートガバナンス・コードを参考にするとよいでしょう。

 

 

(2)コンプライアンスとは

コンプライアンス(compliance)には、「承諾」「追従」といった意味があり、ビジネスでは多くの場合「法令遵守」と訳されます。

 

企業においてのコンプライアンスは、企業そのものや社員が法律はもちろん、業務を行う上でのルールや規定といった社内規範、社会倫理、道徳などを守って行動していくことを指します。

 

 

(3)ガバナンスとコンプライアンスの関係

企業のガバナンスを整備したり、強化したりする際は、当然ながら法律や社会倫理を無視することはできません。また、そのような法律や社会倫理を守るという社内、社員のコンプライアンスを確実なものにすることが、ガバナンスの大きな目的でもあります。

 

つまり、コンプライアンスはガバナンスの一部といってよいでしょう。企業のガバナンスを強化することは、コンプライアンスの強化にもつながっていくのです。

 

 

2.ガバナンスを強化するメリット

企業がコーポレート・ガバナンスを強化するメリットについて、もう少し掘り下げていきましょう。

 

  • 社会的信用度を高め、業績の向上などが見込める

前述してきたように、企業はガバナンスの強化に取り組むことで、不正のない健全な経営、コンプライアンスの徹底などを実現できます。そうしたことにより、企業の社会的信用度は向上し、ステークホルダーからの信頼も厚くなります。

 

「優良企業である」という社会の認知は、企業価値を向上させ、他社との差別化にもつながります。どんな人もどんな会社も、多くの場合、「購入や取引をするなら、不祥事のない安心できる企業で」と考えます。投資先や融資先として、透明性の高い企業を選ぶ投資家や金融機関も多いでしょう。

 

企業の競争力が高まることで、結果として業績のアップ、財務の安定まで期待できることはガバナンスを強化する最大のメリットといえるでしょう。

 

 

  • 労働環境の改善、優秀な人材の確保などにつながる

ガバナンスの強化により、社内環境も改善することができます。例えば、公平性の保たれた人事評価制度や、業務や責任の範囲を明確にした就労規定を構築することで、ステークホルダーのひとつである社員からの信頼も高まります。

 

内部統制がきちんととれている上、仕事が正当に評価され、働きやすい環境が整っている企業では、離職を考える人も少ないでしょうし、よい人材も集まりやすいでしょう。優秀な人材を確保し、企業活動を安定的、持続的に進めていく意味でも、ガバナンス強化は重要なポイントとなります。

 

 

3.ガバナンスを強化する際の留意点

「自社でもガバナンスを強化したい」と考える経営者は多いと思いますが、実施するにあたり、留意しておきたいことがあります。3つをピックアップしてご紹介します。

 

  • かけ声やお題目で終わらせない

コーポレート・ガバナンスは、トップの経営層だけでなく全社一丸となって取り組む必要があります。そのためには、「ガバナンスを強化しよう!」というかけ声やお題目の設定で終わりにせず、社員一人ひとりがきちんと会社のビジョンを認識し実行できるよう、わかりやすいルールや規定を整備することがとても大切です。

 

 

  • ルールやしくみは常に見直しを

ガバナンスを強化するために制定したルールや規定、しくみは、時の経過とともに形骸化や陳腐化するリスクがあります。時代の流れやニーズの変化などもふまえ、常に見直しが必要であることを忘れないようにしましょう。

 

 

  • 社内外で十分な監査機能を整える

ガバナンス体制の形骸化や陳腐化、ルールやしくみの思わぬ穴を防ぐためには、監査が有効です。監査の担当部署を社内に設けるといったことに加え、社外に監査役を設置するなど第3者のニュートラルな目線も取り入れながら、十分な監査機能を整えましょう。

 

 

4.まとめ

ガバナンスとコンプライアンスについてご紹介しました。企業が健全に末長く成長し続けるためには、コンプライアンスの徹底も含め、ガバナンスを強化していくことが必要不可欠です。ぜひ、2つの意味を正しく理解した上で取り組みを進めてみてください。

 

 

 

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。

お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。