電子契約書の基礎/メリットや注意点について

契約に関する当事者間の合意内容は書面による契約書にまとめられ、それを各当事者が保有するのが通例です。しかし、近年、IT化の発達やテレワークの促進に伴い、書面の代わりに契約の内容を電子化した電子契約書が用いられることが多くなりました。また、政府も国を挙げてデジタル化を推進している[1]ことから、今後ますます契約書は電子化されていくことになるでしょう。そこで、今回は電子契約書の基礎について簡単に説明します。

 

1,電子契約書とは

 

電子契約書とは、契約内容をwordやPDFなどを用いて電磁的に作成し、各契約当事者がこれに電子署名することにより、書面による契約と同様の効力を得る契約書のことです。

このようにして成立した電子契約書は、通常、企業のサーバーやクラウドのストレージなどに保管されます。

 

インターネットやパソコンの普及に伴い、近年、電子契約の需要が高まりをみせていましたが、それに加え、2020年の新型コロナウィルス流行によリテレワークが推進された結果、電子契約書は急速に普及しはじめています。

 

また、2020年4月施行の改正民法[2]において、契約の成立には書面は必ずしも必要としないこと、すなわち「契約成立における方式の自由の原則」が明記されました。

 

さらに、2021年5月に国会で成立したデジタル改革関連法[3]も、このような電子契約書への流れを後押ししており、今後はますます電子契約書が普及していくと思われます。

 

 

2,電子契約書のメリットとデメリット

 

電子契約というと、システムの準備や手続きがとても難しそうに思われるかもしれません。それでも紙による契約書ではなく電子契約書を用いるのはどのようなメリットがあるからなのでしょうか。

 

以下、電子契約のメリット・デメリットをみてみましょう。

 

(1)電子契約書のメリット

 

① コスト削減

 

電子契約書を用いる最大のメリットはやはりコスト削減でしょう。たとえば、書面による契約書の場合には、用紙代、インク代、署名捺印のための往復郵送代、印紙代など、いろいろな諸費用がかかります。

 

また、契約書を保管するための保管料や、そもそも書類を郵送したり署名捺印のために相手方の企業などに出向いたり、完成した書類を整理、管理するための人員が必要となることから、相応の人件費もかかります。

 

これに対し、電子契約書は、メール送信などオンラインにより瞬時に相手方が受け取れるうえ、原則として送信料などが別途かかることはありません。

 

② 業務効率化

 

書面による契約書においては、各当事者が署名捺印したり、契印や割印を押したりする作業が必要なため、契約当事者がお互いに出向いたり、または郵送しあうなどしてこれらの手続きを完了させる必要があります。

 

電子契約書においては印刷した契約書を製本したり割印や契印を押したりする必要はなく、さらに、各当事者が互いに出向いたり郵送しあったりする作業も時間も省けますので、契約締結業務が効率的に進みます。

 

また、完成した電子契約書も前述のようにサーバーなどに保管されるため、保管用のスペースや保管庫などを必要としません。

 

そして、書面による場合、書棚に契約書を整理して並べたり後から必要な契約書を探し出す作業は手間がかかりますが、電子契約書の場合、クラウドやサーバーにデータを保管し、保管したデータの中から日付やキーワードにより検索するだけで済みます。

 

したがって、保管・管理業務も効率的になりますし、不要になった契約書類を破棄するのにも、シュレッダーやゴミ捨て作業などは必要なく、単なる削除作業だけで済むため廃棄業務の効率化にもつながります。

 

 

③ リスクマネジメント、コンプライアンス強化

 

紙の契約書類を保管する場合と異なり、データをクラウドなどに保管しておけば、自然災害や火災などによる紛失や焼失リスクを回避できます。

 

また、電子署名の利用により、基本的に検知されるので改ざんを防止できますし、文書成立の信頼性も確保できることから、適切なリスクマネジメントを図ることができます。

 

さらに、継続的契約においては更新を失念しないよう契約内容を頻繁にチェックできますし、会計監査をはじめ各種監査にも迅速かつ容易に対応できるようになり、結果的にコンプライアンスの強化につながります。

 

(2)電子契約書のデメリット

 

① 初期投資、教育などインフラ整備が煩雑

 

IT事業部などの専門部署が既にあれば別ですが、初めて電子契約書を採用するとなると、担当部署の創設、電子帳簿保存、電子署名などを委託するサービスの選定、システム導入、新システムに関する社員教育など、電子契約システムを軌道に乗せるまでに煩雑な手続きをたどることになり、コストや時間がかかります。

 

② 契約の相手方に理解を得る必要がある

 

いくら自社が契約の電子化を希望したとしても、他の当事者全員の同意がなければ実現できません。

 

また、仮に同意を得たとしても、相手方のスキルに応じ適切な技術援助が必要になる場合もあるでしょう。したがって、相手方が慣れるまでの段階においては、かえって業務の負担が増加する危険があります。

 

③ 電子契約が許されない契約もある

 

法改正が進んできたとはいえ、未だに電子契約書が法律上有効と認められていない契約もあります(借地借家法第38条など)。

 

ただし、2021年5月に国会で成立したデジタル改革関連法[4]により、たとえば今まで宅地建物取引業法により書面交付[5]が必要とされてきた重要事項説明書と賃貸借契約書などについても、今後は電子化が可能になる予定です。

 

このデジタル改革関連法に基づいて、48の法律改正が予定されており、今後も書面電子化の流れはますます加速していくと考えられます。自らの作成しようとする契約が電子契約書として有効なのか否かは、随時専門家などに相談して確認しましょう。

 

④ 紙の契約書と電子契約書が混在することになる

 

前述のように、他方当事者が電子化に同意してくれない、もしくは電子化ができない場合や、法律上紙による契約書面が欠かせない場合もあります。したがって、ある契約は書面で作成し、別の契約については電子化するなど、結果的に紙による契約書と電子契約書が社内で混在することになります。

 

このような状態はかえって事務処理を煩雑にし効率化を阻む原因ともなるでしょう。

 

⑤ 情報漏洩などのリスク

 

紙による契約書と異なり、電子契約書は小さな記憶媒体に情報をコピーし簡単に持ち出すことができてしまいます。

 

また、社内サーバーや外部委託のクラウドストレージへのハッキング、ウィルス攻撃など、情報漏洩や情報逸失のリスクは大きく、社内外における危機管理の徹底が不可欠になります。

 

3,電子契約書を作成・保存するために必要なこと

 

(1)電子署名(電子証明書とタイムスタンプ)

 

電子契約書には、作成者の真実性や内容の信用性を担保するため電子署名が用いられます。

 

インターネットを利用したビジネスが普及するにあたり、文書作成者のなりすましなどによるトラブルを防止するため、2001年4月1日「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)が施行されました。

 

これにより、一定の要件を満たす電子署名には、手書きの署名や捺印と同等の効力が認められるようになったのです。

 

しかし、電子的文書においては画像コピーと貼り付けなどにより簡単に署名を偽装できてしまうため、電子署名だけでは証明力が足りません。そこで、次に、電子証明書とタイムスタンプの付与が必要になります。

 

電子証明書とは、指定認証局[6]が発行する証明書で、当該電子署名が実在する人物により正式に署名されたものであることを証明します。

 

タイムスタンプには付与時刻が記されており、タイムスタンプが付与された日時にそのデータが存在したこと、および、タイムスタンプ付与の日時より後に改ざんがなされていないことを証明します(①存在証明と②非改ざん証明)。

 

電子契約書を受信した相手方は、電子署名と電子証明書そしてタイムスタンプの一致を確認することにより、偽装や改ざんがないことを確認できるのです。

 

このほか詳細は総務省「電子署名・認証・タイムスタンプ」その役割と活用をご参照ください。

 

(2)電子帳簿保存法[7]上の電子データ保存要件

 

民法や商法上の契約書と異なり、税法上保存が義務付けられている帳簿や書類(国税関係帳簿書類)については電子データの保存要件が厳格に定められています。

 

したがって、もし当該電子契約書が国税関係帳簿書類に該当するなら、その保存にあたっては、電子帳簿保存法で定めた各要件[8]を満たさなくてはいけません。

 

その要件は大別して真実性の確保と②可視性の確保に分類できます。

 

 

① 真実性の確保

 

ア)訂正・削除履歴の確保

 

各電磁的記録の内容について、訂正や削除の履歴を残してあとで追跡できるようにしておく必要があります。

 

イ)相互関連性の確保

 

帳簿に関係する電磁的記録の記録事項と、その帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておかなければなりません。

 

ウ)関係書類等の備付け

 

電磁的記録を保存したシステム関係の概要書や仕様書、操作説明書やマニュアルなどのシステム関係書類をすぐそばに備え付けておき、誰でも簡単に使用できるようにしておくことが必要です。

 

 

② 可視性の確保

 

ア)見読可能性の確保

 

事業所所在地など所定の場所において、保存データを操作・印刷したりすることができるパソコンなどの電子計算機やディスプレイ、プリンタなどと、これらの操作説明書を備え付け、簡単かつ速やかにデータを出力できるようにしておくことが必要です。

 

なお、この際、電磁的記録の内容がぼやけていて読めないなどということがあってはいけません。肉眼で読める程度の明瞭性が必須ですし、必要に応じ簡単にプリントアウトできるようにしておく必要があります。

 

イ)検索機能の確保

 

各帳簿の必要に応じ、日付や関連ワード、タイトルなど所定の記録項目を用いて容易にデータを検索できるようにしておかなければなりません。

 

このほか、詳細は国税庁HP電子帳簿保存法上の電子データの保存要件をご参照ください。

 

 

 

4,まとめ

 

前述のように、世の中の流れとしては、契約書の電子化が今後ますます普及していくことが予想されます。電子化の波に遅れないよう、今のうちから準備しておいた方が良いでしょう。現在、各種法律や行政手続の改正が進行中ですので、専門家の力を借りるなどして随時最新の情報に気を配っておくことをお勧めします。

 

 

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は英語講師やライター業務等に従事。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題、英語教育など。英検1級。

[1] 内閣官房HP「国会提出法案」(第204回通常国会)参照

[2] 民法第522条第2項

[3] 郡山市HP政策開発部郡山市DX関連6法活用推進本部作成デジタル改革関連6法の成立について参照

[4] 内閣官房HP国会提出法案(第204回通常国会)郡山市HP政策開発部郡山市DX関連6法活用推進本部作成デジタル改革関連6法の成立について参照

[5] 宅地建物取引業法第35条、同第37条

[6] 電子署名法上の「認定認証業務」を行う事業者を「認定認証事業者」(認定認証局)という。国による厳格な基準を満たしている認定認証局は信頼性が高いが、一定の場合を除き、指定する認証局は必ずしもこの公的認証を受けた認証局である必要はない。e-Gov電子申請HP 内 電子証明書認定局のご案内 など参照。

[7]電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」の略。

[8] 電子帳簿保存法第4条