融資の審査基準と通過のポイント|個人事業主が申請時に注意すること

起業をするときには一定の資金が必要です。日本政策金融公庫の2018年度新規開業実態調査」では開業の平均費用は1,062万円となっています。

開業資金をすべて自己資金にて賄うのはそう簡単なことではありません。起業する際には、金融機関から融資してもらう必要がります。ここでは、起業準備に適した融資の制度についてご紹介します。
引用:2018年度新規開業実態調査

融資の種類と審査の概要

融資とは、特定の目的のために金融機関が資金を貸し出すことです。法人、個人ともに融資の対象となりますが、主な目的として起業や事業拡大、住宅購入、車購入などがあります。なかでも事業を対象にした融資は「事業性融資」と呼ばれます。

事業性融資、特に起業時に利用されることの多い融資は、以下の機関から受けられます。

  • 日本政策金融公庫
  • 各自治体
  • 信用保証協会

以下、それぞれについて具体的に解説します。

日本政策金融公庫の融資

日本政策金融公庫は、100%政府出資の政策金融機関です。国の政策にそった固定金利・長期の融資制度が用意されています。日本政策金融公庫には、小規模企業向けの小口資金貸付や経営悪化に備えたセーフティネット貸付、廃業後に復活を期す再挑戦支援資金など、さまざまな融資制度があります。

特に起業を志す人向けに作られたのが、新企業育成貸付の一つである「新規開業資金」です。その特徴は以下のとおりです。

詳しい内容を以下の表にまとめました。
引用:日本政策金融公庫 新規開業資金
引用:日本政策金融公庫 国民生活事業(主要利率一覧表)

利用可能な人 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
融資期間 設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内)
運転資金: 7年以内(うち据置期間2年以内)
利率(年利%) 新創業融資(無担保・無保証人):1.56~2.75
担保提供融資:1.21~2.10 ほか

利率は、2020年5月1日現在のものです。融資期間や担保の有無などの諸条件によって異なるため、詳細については直接問い合わせてください。

融資の条件

日本政策金融公庫の「新規開業資金」では、融資を受けられる人を「新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方」と定めています。加えて、利用が可能な人として以下の条件を示しています。
引用:日本政策金融公庫 新規開業資金

  • 雇用の創出を伴う事業を始める方
  • 現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方
  • 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
  • 民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方

地域おこし協力隊任期終了者、Uターンでの起業など、条件によっては特別利率が適用される場合もあるので、日本政策金融公庫のホームページで確認しましょう。

融資の審査基準

金利が低く返済期間が長いなど、日本政策金融公庫の融資は借りる人にとって有利な条件が多いです。しかしその反面、審査の基準は厳しめです。

日本政策金融公庫ホームページでは、審査基準に関して「ご提出いただいた資料などをもとに、お客さまのご勤務(営業)の状況、ご収入(所得)の状況、お借入の状況、住宅ローンや公共料金のご返済・お支払の状況などから、総合的に判断させていただきます」と記されています。このことから、融資審査の際には以下のような点を重視していると言えます。
引用:日本政策金融公庫で審査落ちしてしまう理由とは?落ちてしまった場合にどうしたらいいのか?
引用:日本政策金融公庫の審査落ちの理由と基準について

  • 申請者の信用情報・借入れ状況
  • 税金・公共料金・家賃などの支払い状況
  • 自己資金の金額(自己資金と融資額のバランス)
  • 事業計画書の内容
  • 売上・利益予想の根拠

起業者向け融資の判断材料となる重要な提出書類は事業計画書です。説得力のある事業計画書を作成することは、審査をクリアするための必須条件と言えます。

申請時の注意点

申請時の注意点には、以下のようなものがあります。

  • 説得力のある事業計画書を作成する
    起業者向け融資の判断材料となるのは事業計画書です。説得力のある事業計画書を作成することは、審査をクリアするための大切な条件です。
  • 面談の準備も重要
    融資にあたっては、事業計画の内容などについてヒアリングする面談が行われます。事業の実現可能性について詳しく、論理的に説明ができるよう、面談の準備を行いましょう。店舗や工場といった事業所への訪問も行われます。
  • あらかじめ電話か来店で相談をする
    日本政策金融公庫では、融資制度や申し込み手続きの相談、問合せを電話で行っています。不安な点や疑問点があれば「金融相談ダイヤル」に電話をして相談することをおすすめします。来店しての相談も可能ですが、予約制です。早めに予約し、余裕をもったスケジュールで相談しましょう。

自治体の融資

都道府県や市町村など各自治体による融資は、自治体のほかに金融機関、保証協会(後述)が一体となって運営しています。融資限度額や返済期間、利率などは各自治体によって異なりますが、一般的な特徴としては以下の点が挙げられます。

最大の特徴は金利の低さです。制度運営の費用や利息の一部を自治体が負担しているため、日本政策金融公庫の新規開業資金制度よりさらに安いことが多いです。詳細は、各自治体によって異なるので、ご自身の居住地・創業予定地の自治体に問い合わせてください。

参考として、東京都が東京信用保証協会、金融機関と協調して行う「東京都中小企業制度融資『創業』」の内容を以下の表にまとめました。
引用:東京都中小企業制度融資『創業』
引用:創業

利用可能な人 新たに事業を始める方または創業から5年未満の中小企業
1か月以内に個人で又は2か月以内に新たに会社を設立して創業しようとする具体的な計画を有し、原則として事業に必要な許認可などを受けている方
融資限度額 2,500万円
融資期間 設備資金:10年以内(据置期間1年以内を含む)
運転資金: 7年以内(据置期間1年以内を含む)
利率(※) 責任共有制度対象の場合:固定金利3年以内1.9%以内~7年超2.5%以内、変動金利は短プラ+0.7%以内
責任共有制度対象外の場合:固定金利3年以内1.7%以内~7年超2.3%以内、変動金利は短プラ+0.5%以内

融資の条件

融資を受ける条件は各自治体によって異なりますが、おおむね以下の項目が中心です。

  • 居住地(事業地)
  • 税金等支払い状況
  • 事業許認可
  • 反社会勢力との関係がないこと

加えて、起業に対する融資では「新たに事業を始める」「創業から〇年(自治体によって異なる)以内」といった条件があります。実際の条件については居住地または事業地の自治体に問い合わせましょう。

融資の審査基準

各自治体の融資審査においても、日本政策金融公庫と同様の審査基準を設けていると考えられます。

  • 申請者の信用情報
  • 税金・公共料金・家賃などの支払い状況
  • 自己資金の金額
  • 事業計画書の内容
  • 売上・利益予想の根拠

注意すべきは「自己資金」です。自治体融資では、全体の2分の1を目安とする自己資金が必要です。日本政策金融公庫では10分の1が目安となっており、この点が大きく異なります。
引用:日本政策金融公庫の「新創業融資制度」の概要

申請時の注意点

自治体の制度融資を利用するときの注意点は以下の3つです。

  • 初回融資が肝心
    一度融資審査に落ちると、二度目からの審査がより厳しくなります。まずは初回で融資を受けられるよう、十分に準備しましょう。
  • 説得力のある事業計画書を作成する
    自治体の制度融資においても、事業計画書の具体性と実現可能性は重要です。

信用保証協会の融資

信用保証協会とは「信用保証協会法」という法律に基づく公共機関です。中小企業や小規模事業者が金融機関から事業資金を調達する際に保証人の代わりとなり、融資を受けやすくなるようサポートします。

一般的に、金融機関から直接お金を借りる「プロパー融資」には厳しい審査があり、起業時や事業を始めたばかりの企業が融資を受けることは難しいです。このプロパー融資に対して、万が一融資を受けた人が返済できなくなった場合に信用保証協会が肩代わりしてくれるのが「保証付き融資」です。

保証付き融資を利用するメリット、デメリットは以下のとおりです

<メリット>

  • 金融機関の融資審査に通りやすくなる

<デメリット>

  • 審査にかかる期間が長い
  • 信用保証料を支払う必要がある(融資金額の0.45~1.90%)
    引用:神奈川県信用保証協会

創業を支援する保証の場合は、利用する制度により限度額は1,500万円または2,000万円となっています。詳しくは全国保証協会連合会のホームページで確認してください。
引用:全国信用保証協会連合会

融資の条件

信用保証協会は47都道府県と横浜市・川崎市・名古屋市・岐阜市の4市にあり、それぞれ制度に基づき企業が融資を受けるための支援を行っています。たとえば、東京信用保証協会の創業融資では、対象者を以下の条件に当てはまることとしています。
引用:創業保証について

  • 都内で創業を目指す方
  • 創業されてまもない方(創業後5年未満)

具体的な融資の条件については、居住地・事業予定地の協会に問い合わせましょう。また、全国信用保証協会連合会のホームページでは、各協会ホームページへのリンク情報を掲載しているので参考にしてください。
引用:全国信用保証協会連合会 お近くの信用協会

融資の審査基準

融資の審査基準を知るために、まず「融資保証料を決める基準」を紹介します。信用保証協会による融資の保証料は、リスク評価システム(CRD)の9段階評価に基づき決められるとされています。リスク評価においては、以下のようなポイントを総合的・多角的に検討して決められています。
引用:東京信用保証協会 信用保証料率の体系
引用:融資保証料の基本料率

  • 保証資格:規模や業種などの各要件が適合しているか
  • 資金使途:借り入れの目的や必要性、効果など
  • 返済能力:資金繰りや資金調達力、財務諸表など
  • 経営者:経営者の経営力、経営意欲、信頼性など
  • その他技術力、将来性など

リスク評価が高ければ保証料は安く、評価が低ければ保証料は高くなります。また、評価が低く、最高基準の保証料を設定しても融資はできないと判断されると「融資の条件を満たさず、審査に通らなかった状態」になるのです。

申請時の注意点

保証協会への申請において大事な点は、日本政策金融公庫や自治体による融資への申請時と大きく変わりません。特に以下の3点に注意しましょう。

  • 説得力のある事業計画書を作成する
    事業計画書の大切さは、融資相手を問わず変わりません。事業の具体性や実現可能性、継続性などについてしっかり盛り込んだ具体的な事業計画書を作成しましょう。
  • 既に取引がある金融機関を通す
    保証付き融資を申し込む場合、金融機関から申し込んでも協会に申し込んでも構いません。もしすでに取引をしていて信頼関係がある金融機関があれば、そちらを通すとスムーズでしょう。
  • 余裕をもったスケジュールで申請する
    信用保証協会、金融機関の両方で審査を行うため、審査に必要な期間は平均2か月と長いです。余裕をもったスケジュールで申請をしましょう。

まとめ

自己資金だけで起業できれば良いですが、どうしても運転資金などの面で不足が出てきかねません。金利の低い現在、融資を受けることは、事業を進めていくうえで必要なことと言えるでしょう。しっかりとした事業計画や経営プランを策定し、さまざまな制度を上手に利用して起業することをおすすめします。