商標登録の出願/自力で商標権を取得する方法

「商標」と聞いて何をイメージしますか。 たとえば、Apple社のりんごマーク。私たちは、あのマークを見ただけで、Apple社であることがわかりますし、Apple社の製品やサービス、そしてApple社の歴史や企業イメージを思い浮かべることができます。
しかし、その一方で「商標って大企業が取るものでは?」そんな風に漠然と考えている方も多いかと思います。実は、そのような考え方は時代遅れ。本記事では、商標権の取得および商標登録の出願や自力で商標権を取得する方法を紹介していきます。

1.商標とは

そもそも「商標」とは、そして「商標権を取るメリット」とは、どのようなものがあるのでしょうか。
まず商標とは

  • 事業者が使用するマーク
  • 自己の商品・サービスと他人の商品・サービスを区別するために使用するマーク

上記を意味します。

続いて「商標権」です。

  • 商標権は「マーク」+「使用する商品・サービス」のセットで登録

ここでポイントとなることは、マークだけを登録しているわけではなくて、「使用する商品・サービス」のセットにおいて登録されるということです。

それでは、商標権を取るメリットとしてはどのようなことが考えられるでしょうか。主要なポイントは以下の二点となります。

  • 商標権を取得しておくことによって、自分の商標として使い続けることができる。
  • 自分の登録商標もしくはそれと似たような商標を使っている人に「使うな!」と言える。
    (指定商品・指定役務について独占することができる。)

参考:特許庁

2.商標権取得の流れ

それでは、商標権取得の流れをみていきましょう。

(1) すでに登録されていないか調べる

商標権の出願前に、まず出願しようとする商標がすでに登録されていないかを調べます。いわゆる先行商標調査と呼ばれる調査を実施します。これは非常に大切なステップで、他人が既に同一・類似の商標(マークが類似し、かつ、商品・役務が類似するもの)を登録している場合には、登録を受けることができないだけでなく、無断で使用すると商標権の侵害となる可能性もあるためです。
すでに該当商標が登録されているかを調べるのは、下記サイトを使うことをおすすめします。

先行商標調査に関しては、下記の特許庁サイトも参考になります。
参考:出願前にやるべきことは/特許庁

(2) 登録区分の検討

まず「登録区分」について説明します。前述したように、商標を出願する際には、「マーク」(商標)と「商標を使用する商品・サービス」をセットで記載する必要があります。この「商標を使用する商品・サービス」を「指定商品・指定役務」と呼びます。そして、この「指定商品・指定役務」を分野別に分類したものが「区分」です。「区分」は第1類から第45類まであります。登録したい商標が商品だった場合は34種類から選択し、登録したい商標がサービスの場合は11種類から選択することになります。

参考:類似商品・役務審査基準(国際分類第11-2020版対応/特許庁)

上記サイトを見ていただければ分かる通り、この登録区分の検討は、かなりの「大仕事」です。世の中に存在するあらゆる商品やサービスを45の大きなカテゴリに分けているのですから。区分の判別・見極めは、端的に言えばかなり困難なのです。さらに言えばこんな「落とし穴」も存在します。

『たとえば、あなたが使っているスマートフォンに入っているアプリ。一見「サービスの区分である42類(オンラインのサービス提供が含まれる区分です)ではないか?」と思いますが、実際は商品の区分である9類(ダウンロード可能なアプリ)なのです。』(引用:https://cotobox.com/primer/trademark-class/

また、区分が異なっていても類似していると判断される場合もあるので気をつけてください。特許庁では、類似関係にあると推定する商品又は役務をグルーピングし、各グループに検索のための特定のコードを付与した「類似商品・役務審査基準」を作成・公表しています。区分が異なっていても、このコード(類似群コード)が同一だと「類似商品・役務」と判断されてしまうからです。

参考:類似商品・役務審査基準〔国際分類第11-2020版対応〕/特許庁

登録区分の検討については、前にも記載したオンライン商標登録サービス「Cotobox(https://cotobox.com/)」が便利です。Cotoboxでは、自社サービスに関連するキーワードを入力することで、独自開発したAIが区分の候補を表示してくれます

(3) 必要書類の準備

先行商標調査で商標の登録可能性を確認し、区分が決定したら出願用紙の記入・準備となります。出願用紙は以下の特許庁のホームページでダウンロードできます。

出願の方法は、「郵送」と「オンライン」のふたつがあります。しかしオンラインの場合は、特許庁からオンラインで手続きすることを認めてもらう必要があり、紙で出願するよりも負担が大きく現実的ではありません。(上記の「願書の書き方が知りたい」は書面による出願手続について記載しています)。オンラインでの出願は大量にかつ継続的に商標を出願する場合にふさわしく、数件程度の商標登録出願は、一般的に手持ちまたは郵送で特許庁に出願することをおすすめします。

また、記載内容の様式チェックは出願前に、特許庁にFAXで文書(願書部分)を送付すれば可能です。

  • INPIT 産業財産権 相談窓口
    FAX:03-3502-8916

また、出願の仕方については以下でも相談を受け付けています。

  • (独) 工業所有権情報・研修館 公報閲覧・相談部 相談担当
    電話:03-3581-1101(内線2121~2123) FAX:03-3502-8916

(4) 出願

書類で出願する方法

集配郵便局等で特許印紙を購入して指定の箇所に貼り付けます。
※特許庁に直接提出される場合は、特許庁内で購入することもできます。
※収入印紙では手続できません。

【郵送する場合】
〒100-8915 東京都千代田区霞が関3丁目4番3号 特許庁長官 宛 に郵送
※宛名面(表面)余白に「商標登録願 在中」と記載して、書留・簡易書留郵便・特定記録郵便で提出します。

【受付窓口へ直接持参する場合】
特許庁1階の出願受付窓口へ提出します。
(受付時間)9時から17時まで(平日)
(土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月29日から翌年の1月3日まで)は、閉庁)

インターネットを用いて出願する方法

インターネット出願は、インターネット回線を利用し、電子証明書と専用のソフトウェア(インターネット出願ソフト)を用いて、自宅や社内のパソコンから特許庁へ特許等の出願や、特許庁から書類等の受け取りをオンラインで行うサービスです。
※詳細は下記の電子出願ソフトサポートサイトにて確認できます。
参考:http://www.pcinfo.jpo.go.jp/site/1_start/index.html

出願手数料について

出願手数料は、[3,400円+(区分の数×8,600円)]となります。手数料相当額の特許印紙にて納付します(出願手数料として、収入印紙での納付は認められません)。特許印紙は、全国各地の集配郵便局で購入可能です。

(5) 審査と登録

出願が終わったら、特許庁の審査結果を待つことになります。期間の目安は13ヶ月程度と言われています(2019年現在)が、場合によってそれよりも長くなることがあります。

審査は、「消費者が混同しないか」等の、さまざまな観点から厳しくおこなわれます。NGだった場合は「拒絶理由通知」という通知文書が届きます。拒絶理由通知に対して反論の機会も設けられていますが、再度拒絶される場合もありますし、なによりも、さらに時間もお金も費やすことになってしまいます。

審査がおわり商標登録できるとの通知があれば、登録費用を特許庁に納めます。商標登録費用は「区分数×28,200円」となります。 商標権の存続期間は、設定登録の日から10年ですが、登録費用を特許庁に納める際、5年分か10年分のどちらを納めるかを選択します。

(6) 更新

商標権の存続期間は、設定登録の日から10年で終了します。 ただし、商標は事業者の営業活動によって蓄積された信用を保護することを目的としていますので、必要な場合には、存続期間の更新登録の申請によって10年の存続期間を何度でも更新することができます。

3.まとめ

商標権取得の流れを解説してきました。商標権取得は、特許事務所や弁理士を通さなくても可能なことをご理解いただけたと思います。
商標は「声なきセールスマン」と言われています。また商標は企業ブランディングとっても必要不可欠です。 「商標って大企業が取るものでは?」くれぐれも、そんな風には考えないでください。

執筆者:榎本 洋(えのもと ひろし)

広告制作会社・書籍編集プロダクションなどを経て、現在はフリーの編集ライター。CSRレポートや環境報告書なども手がける。最近はDXをはじめとするIT関連分野のライターとしても活動中。