役員の変更登記/手順をわかりやすく解説

役員の変更登記、忘れていませんか?株式会社においては、商業登記簿上の登記事項に変更がある場合、原則2週間以内に変更登記手続を行う必要があります[1]。たとえ同じ人物が引き続き役員を続けるとしても、任期が満了した場合には役員の変更登記は必要ですし、取締役や監査役など役員の任期は原則10年以内[2]なので、少なくとも10年ごとには役員変更登記をしなくてはなりません。この変更登記を怠ると、最大100万円以下の過料が課されることもあります[3]。そこで、必要な書類、手続や、どのような場合に役員変更登記が必要になるのかを理解しておきましょう。

 

1.役員変更の種類と必要書類

今回ご説明する「役員の変更登記」が必要なのは以下の各場合です[4]

(1) 就任(新任)

(2) 重任(再任)

(3) 辞任

(4) 任期満了による退任

(5) 解任

(6) 死亡

(7) 欠格事由の発生

以上、原則として全てのケースで変更登記申請書や代理人が行う場合の委任状[5]などは必要になりますが、添付書類として、ほかにどんな書類が必要かは、各項目により異なります。以下、詳しく見てみましょう。

(1) 就任(新任)

役員が就任した場合の登記手続には、一般的に以下の添付書類が必要となります。

  • 選任等を証する書面(商業登記法第46条第2、第3項等)
  • 就任承諾書(商業登記法第54条第1項)
  • 本人確認書類(商業登記規則第61条第7項)
  • 定款(*場合によります)

まず①の選任等を証する書面ですが、ア)取締役であればその選任に必要な株主総会議事録[6]と株主リスト[7]がこれにあたります。イ)代表取締役であれば、(a)取締役会設置会社の場合には取締役会議事録[8]を添付します。(b)株主総会決議で代表取締役を定める場合は、その株主総会議事録[9]と株主リストが必要になります。なお、このほかにも会社の組織編成などに応じてそれぞれ細かく要件が定められているので[10]、自分の会社がどの場合に該当するか確認したり、専門家に相談するとよいでしょう。

株主総会議事録には議長及び出席した役員の押印と(新任の場合)その印鑑証明書が必要になります。しかし、これらも省略できる場合等が細かく定められておりますし[11]、かつ、脱ハンコ政策が今後進められれば不必要になる日も近いかもしれません。

次に②就任承諾書ですが、役員就任の決議が株主総会でなされた場合で、本人が承諾した事実が記録されているなら、その議事録で代用できます。その場合、「就任承諾書は、株主総会議事録の記載を援用する」と記載してください。

ここにいう③本人確認書類は、架空の人物を役員に据えたりすることがないよう、平成27年から新たに加わった要件です。具体的には住民票の写しまたは運転免許証やマイナンバーカードの写し等がこれにあたります。なお、コピーの場合には、「原本と相違ない」と記載して本人が記名押印する必要があります。

(2) 重任(再任)

今まで役員だった人が任期満了後も引き続き役員に就任することを、「重任」といいます。必要な手続書類は基本的に新規の就任の場合と変わりません。ただ、同一人物が続投するので、本人確認書類は不要とされています。

(3) 辞任

役員が自らの意思で役員を辞める場合を、任期満了に伴う退任の場合と区別して「辞任」といいます。この際は辞任届のみ必要で、株主総会の決議は不要ですので、議事録等も要りません。

(4) 任期満了による退任

任期満了による退任の場合、一定の例外的場合[12]を除き、株主総会議事録や株主リストが必要となります。

(5) 解任

役員が自らの意思で辞めるのではなく、辞めさせられるのは通常、株主総会で解任された場合です[13]。従って、原則として株主総会議事録及び株主リストが必要です。

(6) 死亡

役員が死亡した場合の登記変更手続には死亡診断書や死亡届、または戸籍謄本等が必要になります。

(7) 欠格事由の発生

役員は会社の重要なポストを担うので、法人や成年後見の被後見人など、役員になることのできない場合が法律で定められています。これを欠格事由といいます[14]。役員がこれらの事由に該当した場合にはやはり退任することになり、欠格事由に該当することを証明する書類を添付しなければなりません。

 

2.役員変更登記の流れ

では、変更登記に際しどのような手続が必要になるか、具体的にその流れをみてみましょう。

(1) 株主総会

任期満了による退任や、新規就任、重任などの場合には、原則として定時株主総会での普通決議が必要となります[15]。もちろん、定時株主総会とタイミングが合わなければ臨時株主総会を招集する必要があります。

任期途中の役員を解任させる場合は、もし定時株主総会での解任を求めるのでなければ、やはり別途臨時株主総会を招集する必要がありますが、これも特別決議は必要ありませんので、原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権のうち過半数の賛成で足ります。

 

(2) 変更登記申請

株主総会等の手続き後は、すみやかに変更登記を申請しましょう。ちなみに、登記をしないまま、最後の登記から12年を経過すると、会社は実態のない休眠会社等とみなされ[16]、休眠整理作業の対象となってしまいます。もちろん事業を廃止しない旨の届出をした上できちんと登記をすれば解散登記は免れ得るのですが、注意が必要です。

特に、はじめに説明したとおり、役員の変更事由発生後2週間以内に変更登記申請が必要なのですが、これを怠ると最大100万円以下の過料[17]に課せられることがありますので、ご注意ください。

なお、役員の変更に関する登記手続に必要な登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社の場合3万円で、1億円以下の場合で1万円です。これは取締役等の役員の人数には関係ありません[18]

 

3.まとめ

以上みてきたように、役員変更登記には多くの種類があるため、変更事由が発生したらそのたびに、該当する手続を確認する必要があるので、忘れたりしないよう気を付けましょう。

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。


[1]
会社法第915条第1項

[2] 会社法第332条第2項、第336条第2項

[3] 会社法第976条第1項1号

[4] このほかにも、取締役の氏名・住所が変更した場合などがあります。

[5] 商業登記法第18条

[6] 商業登記法第46条第2、第3項

[7] 株主リスト=株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(商業登記規則第61条第2、第3項)

[8] 商業登記法第46条第2、第3項

[9] 商業登記法第46条第2、第3項

[10] 商業登記法第42条第2項第3項、同第46条第1項、同規則第61条等

[11] 商業登記規則第61条第4項但し書き等参照。

[12] 日本法令商業登記研究会編「15訂版 商業登記の手続」p282参照。

[13] 会社法第341条。例外的に、解任決議が否決された場合、解任を請求する裁判も可能です。会社法第854条参照。

[14] 会社法第331条第1項他

[15] 会社法第341条

[16] 会社法第472条第1項

[17] 過料は行政法上の義務違反であり、刑事罰とされる罰金とは異なります。

[18] 登録税法別表第1第24号(一)カ