株主名簿を作ろう/一人株主でも必要な株主名簿

本記事では株主名簿について解説していきます。「株主は自分一人だし、株主名簿なんて要るの?」そんな風に思っている方も多いかもしれませんが、株主名簿の作成は株式会社には義務付けられたものです。それでは、株主名簿の作り方や、管理方法を見ていきましょう。

1.株主名簿はなぜ必要か

はじめに「株主名簿の作成は株式会社には義務付けられたもの」ということの詳細を確認します。これは会社法121条に定められており、株式会社はその大きさや株主の数にかかわらず、必ず株主名簿を作らなくてはいけません。つまり、株主があなたひとりでも作る必要があるのです。
そして、株主名簿を作成していなかった場合は会社法違反となり、100万円以下の過料が科せられるおそれもあります(会社法976条)。また実務的にみても、登記事項の変更が必要なときや新たな出資者が現れたときに株主名簿は必要となってきます。株式会社を設立する際、必ず作らなければいけない書類のひとつに株主名簿があるという風に考えてください。

株主名簿が必要となる具体的なケースを説明します。

【会社設立時】税務署への届出

株式会社を設立してから2カ月以内に「法人設立届出書」を税務署に提出する必要があります。このときに株主名簿も提出が必要です。

【会社設立以降】株主の特定が必要な場合

株主総会や株主が権利行使をする場合など、株主の特定が必要なケースで必要となります。

【会社設立以降】会社登記の内容を変更する場合

法務局から株主名簿の提出を求められる場合があります。

2.株主名簿を作ろう

それでは株主名簿の作り方を説明します。会社法第121条には、株主名簿に必ず記載しなければならない事項として、次の4つがあげられています。

  • 株主の氏名又は名称及び住所
  • 株主の有する株式の種類とその数
  • 株主が株式を取得した日
  • 株券の番号

ひとつずつ順にみていきましょう。

(1) 株主の氏名又は名称及び住所

株主が個人の場合には氏名を、法人の場合にはその名称を記載します。住所は、株主が個人の場合には住所を、法人の場合には本店所在地を記載します。

(2) 株主の有する株式の種類とその数

株主が所有している株式の種類と、種類ごとの数を記載します。通常の株式は普通株式と呼ばれていますが、企業によってはいろいろなオプションがついた株式を発行している場合もあり、これをまとめて「種類株式」といいます。こうした種類株式を発行している会社は、株主がどの株をそれぞれいくつ持っているのか記載する必要があります。

(3) 株式を取得した日

ここでいう株式を取得した日とは、必ずしも株式の所有権を得た日のことではありません。
株式の譲渡は、正確には当事者間の売買で完了した日が取得日となるわけですが、株主名簿に記載すべき日付は、譲渡が行われたあと会社に対して株主名簿の名義書換請求がなされ、会社がそれを受理した日となります。譲渡日と名義書換請求を受理した日が同日であれば問題ありませんが、異なる場合は注意してください。

(4) 株券の番号

株券を発行する旨を定款に記載していなければ、株券を発行する必要はないため、そのような会社では株券の番号自体が存在しません。したがって、この項目は株券を発行している会社のみの記載事項となります。

3.株主名簿の管理方法

株主名簿には、株主の管理及び権利保護という目的がありますので、その管理方法は適切に取りおこなうことが必要です。

株主名簿の保管場所

株主名簿は、原則として会社の本店に置きます。紙媒体で保管しないといけないような気がしますが、実際はそんなことはありません。電子データとしての保管でも問題はなく、エクセルなどで作成し、そのファイルを保存しておけば問題ありません。

閲覧請求への対応

株主や会社に対する債権者は、その会社の営業時間内に限り、株主名簿の閲覧やコピーを請求できます。この請求をされた場合、会社は原則として応じなければなりません。しかし会社が不利益を被る可能性がある場合などは例外的に拒むこともできます(会社法125条3項各号/株式会社の業務の遂行を妨げる場合や、権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったときなどは、拒むことができます)。

名義書換請求

株主が代わるなど株主名簿の記載事項に変更があった場合、株主名簿の情報を新しく更新する必要があります。ただし、株主名簿を書き換えるのは株主などから名義書換請求を受けた後です。通常、名義書換請求は会社が任意に定めた「名義書換請求書」を提出しておこないます。

4.まとめ

会社にとって、株主を管理することはきわめて重要です。株主名簿はそのためのツールです。そもそも、株主名簿が義務化されている大きな理由は、株主が会社に対して大きな力を有しているから。 たとえば、株主は会社の株主総会で役員を選任できるという権利を持っています。株主名簿には、株主の管理及び権利保護という目的があり、法令順守の観点からも必ず作成する必要があります。また株主名簿の適切な管理・保管を怠ると、取締役等には100万円以下の金銭的なペナルティーがあると会社法で定められていますので、速やかに対応しましょう。

執筆者:榎本 洋(えのもと ひろし)

広告制作会社・書籍編集プロダクションなどを経て、現在はフリーの編集ライター。CSRレポートや環境報告書なども手がける。最近はDXをはじめとするIT関連分野のライターとしても活動中。