債権と債務/債権者でもあり債務者でもある自社

「債権」「債務」とは何でしょうか。契約書にこれらの記載があっても、厳密には意味がよくわからないという人もいます。しかしそれでは、契約書の内容を正しく理解できず、適切な資金管理を行うこともできません。そこで本記事では、主に売掛金に関する債権と債務につき説明していきます。

 

 

1.       債権、債権者

債権とは、原則としてある特定の人に対して特定の行為や給付を請求できる権利のことをいいます。

この点、継続的に大量の取引がなされる商取引では、個別の商品やサービスに対する代金をその都度支払うのは手間やコストを考えれば非効率かつ非現実的です。そこで、一般的な商取引では一定期間分の売買代金を後でまとめて支払う「信用取引」(掛取引)が多く行われています。このように企業間取引で将来的に売り上げ代金を取得しうる権利を特に「売掛債権」といいます。

 

例えばA社がB社に対し定期的に商品を売り上げているとしましょう。この場合、A社はB社に対し当該商品を所定の期日までに引き渡すのと引き換えに、B社から定期的に商品代金の支払いを受ける権利即ち売掛債権を取得します。

 

B社からの入金は通常、A社が商品を納入してから約1~2か月後です。その間、A社はB社に対し、売掛債権を有する「債権者」となります。

 

2.       債務、債務者

次に、「債務」「債務者」について説明しましょう。先ほどの事例で、B社はA社から商品やサービスの提供を受けた後1~2か月後にA社に対しその売買代金を支払う義務、すなわち「買掛債務」を負います。買掛債務は会計上の流動負債に分類される「負債」で、1年以内に支払わなくてはなりません。この買掛債務について、B社はA社に対する「債務者」となるのです。

 

なお、今回のような契約では、A社はB社に対し商品を納入する債務を負う債務者である一方で売掛代金の債権者でもあり、他方、B社は商品の納入をA社に求めることができる債権者であると同時に、代金支払い義務については債務者でもあります。

 

このように当事者双方がそれぞれ相互に債務を負う契約の場合[1]、自社がどのような債権や債務を負うのか契約内容をよく確認し、混乱しないようにしましょう。

 

3.       債権管理とは

以上みてきたように、売掛金は商品の提供後、ある程度時間が経ってから入金されます。その間、債権者は実際に現金を取得できないわけですから、的確な時期に確実に売掛債権を回収しなければ安定した資金繰りが維持できません。そのため、売掛金をもれなく回収するための管理、すなわち債権管理が重要になります。

 

債権管理は大きく「与信管理」「請求管理」「入金管理」という3つのプロセスに分けられます。詳しく見てみましょう。

 

(1)与信管理

①与信調査

売掛金を弁済期日に確実に回収できるようにするためには、その取引先に対しどのぐらいの金額まで取引してよいか、取引先の信用力や将来性を予測しその支払い能力を分析しておく必要があります。具体的には、取引先の決算書類を入手して精査したり、信用調査会社を利用したりする方法が考えられます。

 

②与信限度額を設定

与信調査の結果に基づき、取引先の与信限度額を設定します。ただし、将来のリスク低減・回避のためには、いったん信用限度額を決定した後も取引先の財務状況について常に注視し、その与信限度額を必要に応じて設定、変更することが望ましいといえます。

 

(2)請求管理

与信限度額が決まり、取引が行われたら、次は請求管理です。前述のように納品後支払いまでタイムラグがある売掛債権では、どの請求がどの納品に基づくものかにつき請求漏れやミスが発生しがちですので、それを避けるため、各請求を適切に管理しなければなりません。

 

具体的には、まず、得意先ごとの売掛債権台帳を作成し、売掛金の支払期日や繰越額、割引金額などを記帳します。できれば商品の出荷と同時に速やかに記入できるように徹底しておくことが望ましいでしょう。

 

そしてこの売掛債権台帳に基づき、請求書を発行、取引先へ送付します。この時に、請求漏れや二重請求、請求ミスがあれば会社の信用度にかかわりますので、間違いがないよう、十分内容を確認しましょう。

 

(3)入金管理

債権を回収した後は速やかに未回収売掛金からの消込作業をしましょう。そのためには、支払を受けた場合、どの商品に関する代金なのかをただちに明確にできるシステムを構築しておくことが重要です。

 

また、請求先の支払いに遅れが出ている場合には、一定程度の猶予を与えた支払督促状を送付しましょう。この時、送付記録を残しておけばそれが裁判では証拠となりますし、後のトラブルを回避するのに有用です。

 

4.       債務管理とは

会社の資金を効果的に運用し、支払資金をスムーズに準備できるようにするため、債務管理もとても重要です。以下、債務管理のうち、仕入先等への支払管理と、金融機関などへの借入金返済管理についてみてみましょう。

 

(1)仕入先等への支払管理

① 請求書の確認と支払予定表の作成

まず仕入れ先からの請求書や契約書の内容を確認し、支払内容を日付ごと・支払先ごとに支払予定表にまとめましょう。これにより、いつ、誰にいくら支払うかが直ちに分かるようになります。

 

②振込・支払作業

支払予定表をもとに、銀行で支払い作業を行います。最近では取引銀行と提携するオンライン取引やネット銀行の口座などを活用して銀行への往復の手間や振込手数料などを節約する方法も人気です。

 

③出金記録

支払が済んだら、支払期日や支払金額を出金伝票に記録し、また、どの買掛債務に対する支払なのか確認後、その消込作業も行います。これがきちんとなされていないと、どの買掛債務が未払いなのか不明となり、結果的に債務管理が困難になってしまいます。支払漏れがないよう、極力すぐに記録できるシステムを構築しておきましょう。

 

(2)金融機関への借入金返済管理

まず、資金調達をした金融機関からの借入金一覧表を作成します。そして、いつ、どこに返済するのか、借入先、そして借り入れ契約ごとに返済予定計画管理表を作成しましょう。

そして借入日、返済開始日、返済期間、返済回数、利率、支払利息、返済後の借入金残高などを記載します。

 

健全な資金繰りを維持するためには、以上のような債権債務管理を厳格に行うことが重要です。

具体的な方法としては、手書きやエクセルで表を作成して計算する方法もありますが、最近では自動計算に加え、支払日が休日だった場合に日付も自動補正してくれるなど、便利な会計ソフトなどがネット上でも取得できますので、いろいろ検討されてみてはいかがでしょう。

 

5.       まとめ

企業にとって日々の業務は大切ですが、そもそも資金管理がうまくいかなければ結局本業を円滑に継続することはできません。締結した契約書に適宜立ち返り、債権債務の内容を確認して適切に管理することを忘れないよう心がけてください。

 

豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、フリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。

 

 

[1] このような契約を「双務契約」といいます。