出資を受ける/資金調達の一つである出資のメリット・デメリット

事業を開始・継続するにあたり資金調達は大変重要です。自己資金が十分あるなら別ですが、通常は何らかの方法で資金を集めなければなりません。資金調達の方法は、銀行などからの融資や、出資、助成金や補助金等いろいろありますが、できれば事業の運営方針や返済体力等を考えながら最適なものを選びたいですよね。そこで、今回は数ある資金調達方法のうち特に「出資」に焦点を当てて具体的にみていきましょう。

1.出資とは

企業の成長を期待してその企業に資金を出すことを出資といいます。出資を受けるには厳しい条件もあるかもしれませんが、企業は出資で得た資金を返済の必要なく利用できますし、最近では新しい出資者や調達方法の種類も広がっているため、うまく活用できればこの上なく魅力的です。

2.出資者の種類

代表的な出資者には以下の3種類があります。

(1) ベンチャーキャピタル(VC)

(2) 個人投資家

(3) クラウドファンディング

(1)ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルは、未上場のベンチャー企業に対し、その成長を見越して出資する投資会社や投資ファンドなどをいいます。金融機関や証券会社、商社などの関連系列をはじめ政府系や大学系など、その種類はさまざまです。

ベンチャーキャピタルは、出資先企業の株式を未上場時に安価で取得しておき、株式上場(IPO)した場合に高額で売却したり、M&Aなどにより価値の上昇した企業を売却したりすることで、多額の利益(キャピタルゲイン)を取得することを目的としています。彼らは独自の厳しい基準で投資先企業を選別しますから、当然、その眼鏡にかなわない限り簡単には出資してもらえません。また、出資先企業にはその目的に見合った相応のリターンが要求されます。

(2)個人投資家

顧客から巨額の資金を預かって運用する年金基金(GPIF)や保険会社、銀行等のことを、機関投資家といいます。これに対し、個人投資家とは、文字通り個人で投資している人のことです。

個人投資家は、機関投資家やVC(ベンチャーキャピタル)に比べると資金力が弱いのが特徴です。しかし、まだ実績のない企業に対し応援する形で出資してくれる天使のような個人投資家、すなわち「エンジェル投資家」の存在はたいへん重要です。エンジェル投資家による出資は、審査がそれほど厳しくないうえ、資金の使い道につき自由度が高いというメリットがあるからです。エンジェル投資家による資金を利用して奇跡的な事業成長を遂げた事案としてはグノシーが有名です。

欧米に比べると日本のエンジェル投資家はまだそれほど多くはないものの、事業者とエンジェル投資家を繋ぐマッチングサイトはネット上で探せばいくつもヒットします。また、エンジェル税制[1]の導入により税務上の優遇措置も期待できますし、個人投資家は今後増えていくでしょう。

(3)クラウドファンディング(crowd funding、クラファン)

クラウドファンディングは、ネット上などで不特定多数の人から出資を集める方式です。たとえば日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞した映画「この世界の片隅に」などは有名ではないでしょうか。この映画の制作では、エンドロールに支援者の名前をクレジットするという形でクラウドファンディングに成功しています。

クラウドファンディングには手軽に利用できるという利点があります。

また、出資者としても、少額ずつ分担して出資することでリスクを分散できるし、事業の趣旨に賛同して出資することで、単なる利潤追求だけでない自分の理想を事業者が代わりに実現してくれるという良さがあります。たとえば、最近クラウドファンディングのマッチングサイト内で行われている、「フードロスを減らす」、「コロナで苦境に立たされた事業を助ける」という試みなどはその良い例かもしれません。趣旨に賛同する人が多く集まれば強力な資金源となります。

3.出資を受ける前に

次に、出資のメリットとデメリットについてみておきましょう。

(1) 出資を受けるメリット

・返済不要。

融資と違って出資の場合、不動産や保証人など担保が必要ありませんし、返済も必要ありません。当然、利息を払う必要もありません。

・多額の資金を集めることができる。

スタートアップ企業は資本も実績もまだなく、金融機関から融資を断られがちです。これに対し、出資であれば、ビジネスモデルや将来の成長を見込まれれば、事業規模や資本の額にかかわりなく巨額の資金を受け取ることも可能になります。

・出資者から援助を受けることができる。

出資者の目的は事業の成長による利益獲得です。そこで、確実な成長を求める観点から、出資者が経営に関して色々な方法で援助することが少なくありません。たとえば豊富な知識・経験に基づく経営のノウハウを教える、有用な取引先や提携先を紹介する、などの援助を受けることが期待できるでしょう。

(2) 出資を受けるデメリット

・出資者が経営に関与することがある。

出資金を受け取るのと引き換えに、通常、事業者は株式を出資者に提供する必要があります。そして、運営に関する発言権の大きさは、出資比率に応じて変わってしまいます。出資比率に基づいて出資者など外部の者に経営権を握られる可能性があることを忘れないでください。

・好ましくない者(反社)が出資者に入る可能性がある。

出資者にいわゆる暴力団やその関連企業等、「反社会的勢力」(反社)[2]が含まれていた場合、上場できなくなります。それだけでなく、反社とのつながりが明るみになれば、社会的に制裁を受け、会社生命を絶たれる危険もあるのです。

このような事態に陥らないよう、事前の調査を入念に行いましょう。具体的には、出資者に関する周囲の評判を集める、銀行や警察に問い合わせる、ネット上のデータベースを利用する、などがお勧めです。

4.まとめ

以上のように、出資を受けるには多少の心配事はあるものの、どれも気をつければ対処しうるものです。それ以上に出資には、返済や担保が要らない、出資者の選択肢が多い、ネット上で出資者を探しやすいなど、多くのメリットがあります。ぜひ積極的に活用して事業に役立ててください。

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。

[1] 中小企業庁 エンジェル税制の仕組み 参照

[2] 2007年に法務省は「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を取りまとめました。その中で、「反社会的勢力」のことを、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人のこと」としています。