解雇のいろいろ/経営者の立場から解雇を考える

一口に解雇といっても、いろいろな種類があり、また、解雇権の濫用を避けるために解雇にはさまざまな制約が課せられています。以下、具体的にどのような種類があり、どんな手続が必要なのかを説明します。

 

1.        解雇の意味

労働契約は使用者と労働者相互の合意による自由契約ですから、その契約を終了させるには原則として双方の合意が必要です。

 

とはいえあくまでも任意の契約ですので、基本的に2週間前までに退職の告知をすれば労働者は自由に辞職(退職)できます[1]

 

他方、解雇とは、これとは逆に使用者が労働者との間の労働契約を一方的に終了させることです。

 

労働者にとって労働契約の維持は生活基盤を支える重要なものですから、解雇がいつでも自由に認められてしまうと、社会的立場の強い使用者による恣意的な解雇により労働者に対し極めて不利で不安定な立場を強いることになり、不当です。

 

そこで、法律上、解雇については「就業規則に解雇理由を記載すること」[2]や「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当と認められること」等、厳格な要件が必要とされます[3]

 

以下、詳しくみていきましょう。

 

2.        解雇の種類

まず、解雇には、(1)普通解雇、(2)整理解雇、(3)懲戒解雇、および(4)諭旨解雇があります(表1参照)。

 

後述のように、解雇をしようとする場合、使用者はその労働者に対し、原則30日以上前の予告または解雇予告手当が必要です[4]。ただし、例外的に労働基準監督署による除外認定を受ければ、これらが不要になることもあります。

(1) 普通解雇

普通解雇とは、労働契約の債務不履行(就業規則に規定された解雇事由に該当すること)を理由に労働者を解雇することで、整理解雇や諭旨解雇、懲戒解雇以外の解雇の総称を指します。

 

解雇の有効性は、その就業規則に規定された解雇事由がそもそも法律違反でないことや、社会通念上相当と認められること、また、就業規則に規定された手順に沿って適切に行われること等、厳格な基準に基づいて判断されます。

 

また、失業保険上の取り扱いでは会社都合退職となるのが一般的です。

 

(2) 整理解雇

整理解雇とは、業績の悪化による経費削減を目的とした人員削減の一環で行われる解雇のことで、いわゆる「リストラ」と呼ばれるものです。

 

法律上規定があるわけではありませんが、過去の労働判例の実績から用いられるようになった慣例上の用語です。

 

整理解雇は、労働者には何ら落ち度がない会社都合の解雇ですから、その解雇が使用者による権利濫用に当たらず有効であると認められるためには、厳しい要件が必要となります。

 

具体的には、労働判例の積み重ね等から以下4つの要件を総合的に考慮して判断されます(整理解雇の4要件)。

 

① 人員削減の必要性

② 解雇回避努力義務の履行

③ 解雇者の選定方法の合理性

④ 解雇手続の相当性

 

① 人員削減の必要性

会社都合の解雇ですから、このまま事業を継続していたらいずれ経営破綻が確実である等「どうしても人員を整理しなくてはならない経営上の必要性」が高いことが認められなければなりません。

 

② 解雇回避努力義務の履行

使用者が一定の経営再建努力を行い、また、各種経費削減や役員報酬を含む人件費全体の削減、新規求人の停止等、当該解雇を回避するために尽力したと認められる必要があります。

 

③ 解雇者の選定方法の合理性

解雇する労働者を選別する際は、いろいろな事情(労働者個人の能力や成績、扶養家族の有無、若年者であって将来的再雇用の可能性が高いかどうか等)を総合的に考慮して、公平かつ合理的に行う必要があり、使用者の独断による恣意的な理由で選別してはいけません。

 

④ 解雇手続の相当性

解雇される労働者に対しできる限り十分な説明や協議の機会を設けること、可能な範囲で退職金を給付すること、等が重要です。

 

なお、整理解雇は失業保険においては会社都合退職という扱いになります。

 

(3) 懲戒解雇

懲戒解雇とは、労働者が業務上の地位を利用し事業所内での横領や窃盗を行った場合等、特に重大な就業規則違反行為があった場合に適用される最も重い処分です。

 

たとえば上記のほか、重大な経歴詐称、他の事業所への勝手な転職等も懲戒解雇に当たる可能性が高いでしょう。

 

ただ、「解雇」である以上、あくまでも就業規則に「懲戒解雇事由」として「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」等、その解雇事由が規定されていることが前提です。

 

懲戒解雇では、一般的に解雇予告や解雇予告手当が不要になることも少なくありません。また、退職金は支給されない傾向にあります。

 

なお、懲戒解雇の場合、失業保険においては自己都合退職となります。

 

(4) 諭旨解雇

諭旨解雇とは、本来懲戒解雇事由に該当する場合にも主に会社の恩情で一段階軽い処分として選択されるものであり、特に法律上明確な規定はありません。

 

「諭旨」とは、理由や趣旨を相手に告げて諭すことを指し、使用者は懲戒解雇対象の労働者に対しその旨を伝え、できるだけ自主退職をするよう勧めることになります。

 

諭旨解雇は懲戒解雇ではないため、減額されることは多いものの一応退職金が支払われる傾向にありますし、原則どおり解雇予告や解雇予告手当も必要です。

 

ただ、あくまでも懲戒解雇相当事案ですので、失業保険においては自己都合退職という取扱いになります。

 

また、退職勧告を受けても本人が退職に応じない場合には、原則に戻って懲戒解雇となります。

 

3.        解雇の手順

一般的な解雇における具体的手順は以下の(表2)のとおりです。一つずつみてみましょう。

 

(1) 解雇方針決定

まず、当該解雇が不当解雇に当たらないかどうか確認しましょう。

 

一般的に、解雇の前に当該労働者本人を交えて十分な協議の場を持ち、まずは自主退職するよう勧告することが多いようです。

 

そして、当該解雇が相当であると判断された場合には、解雇理由をまとめて解雇の方針を決定します。

 

(2) 解雇通知書の作成

解雇通知書には、就業規則のどの項目に該当するのか、及び具体的な解雇理由を明示します(無断欠勤、能力不足等)。法律上書面での作成は必要ではありませんが、後のトラブルを避けるためにも書面で残しておくことが望ましいでしょう。

 

また「退職勧告に応じなかったら40日後に解雇とする」といった条件付きの文書では不十分です。必ず確実かつ明確な解雇の意思を表示しましょう。

 

具体的には、以下の①〜⑥のような内容を記載します。

 

① 使用者の名称(代表者の署名押印を含む)

② 書面作成日

③ 従業員の氏名

④ 解雇の日

⑤ 解雇の理由となった行為

⑥ 該当する就業規則の条項

 

(3) 当該労働者への解雇予告通知

前述のとおり、解雇をしようとする場合、使用者はその労働者に対し、原則30日以上前の予告が必要です[5]

 

そこで、解雇予定日の30日以上前に、労働者本人に対し解雇予告通知を行います(詳細は後述「5.解雇予告と解雇予告手当」参照)。

 

(4) 解雇理由証明書の提出

なお、解雇予告通知があった後、退職までの間に 労働者の要求があれば使用者は解雇理由証明書を出さなければなりません[6]

 

解雇理由証明書には、解雇される労働者が「書かないでほしい」と要請した内容を記載してはいけませんのでご注意ください[7]

 

作成した証明書は、内容証明郵便等、配達の日時が証明できるもので送付するか、手渡しして受領証を受け取りましょう。

 

(5) 解雇の公表

再発防止等を目的として解雇の処分を社内で公表する場合がありますが、これは関係者のプライバシー権侵害や名誉毀損に当たる可能性がありますので、注意してください。

 

そもそも公表の目的は解雇された者に対する見せしめであってはなりません。

 

あくまでも社内規律の維持や再発防止を目的とするものであることが必要です。

 

解雇の事実を公表する場合でも、再発防止等の目的を達成するのに必要かつ最小限の範囲で行い、解雇された労働者の人権に配慮しましょう。

 

具体的には 解雇された者を容易に推測、特定できるような表現方法は避け、公表する範囲も原則として社内に留めておくことをお勧めします。

 

4.        解雇制限

労働者が解雇後の就職活動に困難をきたさないよう、法律上以下の各場合には解雇が制限されています[8](解雇制限)。

 

(1) 業務上の負傷または疾病で休業する場合

治療のため休業する期間および再出社から30日間は解雇制限期間になります。

 

(2) 産前産後休業[9]の場合

産前休業6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後休業は8週間ありますが、その後30日間は解雇制限期間になります。

 

ただし、使用者が労働基準法第81条[10]の規定によって打切補償を支払う場合や、天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合はこの限りではありません[11]

 

5.        解雇予告と解雇予告手当

すでに述べてきたとおり、使用者が労働者を解雇するには原則として「少なくとも30日以上前の解雇予告または解雇予告手当の支払」が必要です[12]

 

(1)         解雇予告

これは使用者から労働者に対する解雇の「意思表示」ですから、基本的にはどのような形であれ相手方に解雇の意思が届けば有効となります[13]。したがって、理論上は、書面ではなく口頭やメール、LINE等による方法も可能です。

 

ただ、30日以上前の予告が解雇要件ですから、当該労働者に解雇予告通知が到達した日付は、その解雇の有効性を判断するにあたり非常に重要です。

 

この点、対面で書面を交付する場合は日時が不明になりがちなので、相手方に書面交付の日時記入と署名をしてもらい、それを保管しておくのが良いでしょう。

 

他方、無断欠勤が続いて本人と連絡が取れない等の事情がある場合には、メールやLINE等による方法も便利です。

 

しかし、メールやLINE等では相手に到達したかどうかが分かりにくく、やはり到達日時が不明になりがちです。

 

そこで、開封確認メッセージを要求するメールサービスを利用するか、やはりきちんと配達証明の取れる内容証明郵便等の書面による通知を利用するのがお勧めです[14]

 

(2)         解雇予告手当とは

労働基準法第20条では、解雇予告をしない場合には解雇予告手当を支払うと定めています。すなわち、30日分の平均給与分を解雇予告手当として支払えば即時解雇も可能ということです[15]。その場合、解雇予告手当は解雇と同時に、もしくは遅滞なく支払うようにしましょう。

 

もちろん、懲戒解雇等、労働者の責任による解雇と認められる場合や、天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となった場合で、労働基準監督署長の認定を受ければ、そもそも解雇予告手当を支払う必要はありません[16]

 

6.        解雇後に気をつけること

(1) 退職金等

解雇後は、就業規則の規定に沿って正しく退職金等を支払いましょう。

 

(2) 社会保険等

社会保険の資格喪失に関わる手続が必要な場合には、資格喪失事実発生から5日以内に健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失手続届や、退職者本人及びその扶養家族の健康保険証を提出する必要があります(日本年金機構「従業員が退職・死亡したときの手続き)。

 

健康保険証等は退職前に回収しておきましょう。

 

(3) 雇用保険等

解雇後10日以内に雇用保険の被保険者資格喪失届および離職証明書等をハローワークへ提出することが必要です(厚生労働省 雇用保険制度手続き一覧表(1)被保険者に関する手続一覧)および(事業主の行う雇用保険の手続「3.労働者が離職した場合」、同リンク先雇用保険被保険者離職証明書についての注意)参照。

 

また、その後ハローワークから届いた離職票を解雇した従業員に郵送してください。

 

詳しくはハローワークへお問い合わせいただくと良いでしょう。

 

(4) 税務等

従業員の離職に伴い、住民税徴収方法の確認と切り替え手続が必要になる場合があります。退職日が1月~5月の場合と6月~12月の場合では取扱いが異なり、また、退職所得および給与所得の源泉徴収票発行が義務付けられている点にも注意しましょう。

 

詳しくは管轄地税務署等にお問い合わせください。

 

7.        まとめ

以上のように、解雇権の行使には厳しい制約が課せられています。後日の紛争を避けるためにも、解雇を選択する際は、それぞれの手続や要件をよく確認して慎重に行いましょう。

 

豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在はフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育等。英検1級。

[1] 民法第627条第1項

[2] 労働基準法第89条第1項3号

[3] 労働契約法第16条

[4] 労働基準法第20条

[5] 労働基準法第20条

[6] 労働基準法第22条第2項

[7] 労働基準法第22条第3項

[8] 労働基準法第19条

[9] 労働基準法第65条

[10] 労働基準法第81条

[11] 労働基準法第19条 ただし、天災その他やむを得ない事由について労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。

[12] 労働基準法第20条

[13] 民法第97条第1項

[14] 労働者が使用者からの解雇通知到達を妨害した場合には、通常到達すべきであったときに到達したものとみなされる(令和2年4月1日施行改正民法第97条第2項)。

[15] 解雇予告不足日数に応じて日割計算で支払えば足りる(労働基準法第20条第2項)。

[16] 労働基準法第20条第1項