労働基準法とは/経営者として知っておくべきこと

本来、労使間の契約は当事者間で決めるものです(契約自由の原則)。しかし、そうすると、使用者がその有利な立場を利用して恣意的に契約内容を決められるため、往々にして労働者の権利は侵害されがちです。そこで、主に労働者の立場を守るため、労働基準法をはじめ多くの労働関係法が定められています。労働基準法違反の場合には使用者に罰則もありますので、うっかり違反してしまうことのないよう基本を学んでおきましょう[1]

 

1、労働基準法とは

労働基準法は労働組合法、労働関係調整法とならぶ労働三法の一つで、主に労働条件の最低基準を定めています。労働基準法は、公務員やフリーランスなどを除き、正社員、アルバイトなど名称を問わず原則としてすべての労働者に適用されるルールであることに注意してください[2]

 

また、労働者の待遇改善に向け、働き方改革をはじめ近年は頻繁な労働関係法改正がなされているため、常に最新の情報に注意しましょう[3]

参考:働き方のルール 労働基準法のあらまし 厚生労働省

参考:厚生労働省 企業自己診断

 

2労働基準法のポイント

労働基準法の内容については、以下のように、押さえておきたい9つのポイントがあります[4]

(1) 労働条件の明示

(2) 賃金

(3) 労働時間

(4) 休憩・休日

(5) 割増賃金

(6) 年次有給休暇について

(7) 解雇

(8) 就業規則

(9)  使用者が気をつけたい罰則付き規定

 

以下、1つずつ見ていきましょう。

 

(1) 労働条件の明示

労働者を採用するときは、契約期間や労働時間、賃金などに関する労働条件を明示しなければなりません[5]。詳しくは表1をご覧ください。

 

労働条件には、ア)必ず明示しなければならないことと、イ)定めをした場合に明示しなければならないことがあります(表1)。

 

ア)必ず明示しなければならないのは、①契約期間に関すること、②期間の定めがある契約についての更新基準に関することなどです。

 

このうち、⑦昇給に関すること は書面交付を必要としていませんが、①~⑥の事由に関しては、原則として書面交付が必要です。

 

この点、2019年4月施行の法改正により、一定の要件を満たした場合には、例外的にファックスや電子メールなどの方法でも明示が可能になりました[6]

 

具体的な書面の作成方法については、厚生労働省のホームページに、モデル労働条件通知書 が掲載されているので活用すると良いでしょう。

 

次に、イ)定めをした場合に明示しなければならないこととしては、退職手当や賞与に関すること、食費や作業用品などの負担に関することなどが挙げられます(表1)。

 

(2) 賃金

2つ目のポイントは「賃金」です。賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称を問わず、使用者が労働者に対し、労働の対価として支払うすべてのもの[7]をいい、使用者は以下の5つの原則を満たす形で賃金を支払う必要があります (賃金支払いの5原則[8])。

 

①  通貨払い;賃金は自国で流通する通貨で支払う必要があり、現物給付は禁止されています。なお、労使間での合意があれば銀行振込による支払いも可能です。

 

② 直接払い;労働者本人に支払う必要がありますので、代理人や親権者などに対して支払うことはできません。ただし、本人が受け取れない事情がある場合に、配偶者など「使者」に支払うことは認められます。

 

③ 全額払い;賃金は税金や社会保険料など所定の控除を除き、定められたものを全額支払う必要があります。

 

したがって、積立金などの名目で勝手に支払の一部を差し引いたり、前借金との相殺を行うことはできません[9]

 

④ 毎月1回払い;賃金は毎月1回は支払う必要があります。ただし、臨時に支払われる賞与等は例外となります[10]

 

⑤ 一定期日払い;「毎月20日」のように、必ず周期的に到来する賃金支払期日を決める必要があります。「毎月第3金曜日」のように定めることは、月によって支払日が変わってしまうので、認められません。ただし、支払日が休日になる場合には就業規則でその前後の日を支払日にすることはできます。

 

※なお、最低賃金は 最低賃金法 に基づき各都道府県ごとに定められています[11]

 

(3) 労働時間

3つ目のポイントは労働時間です。

労働時間の上限は原則1日8時間、1週間につき40時間です[12]。例外的に、10人未満の商業、映画、演劇業、保健衛生業、接客娯楽業では1週間44時間とされています[13]

 

この上限を超えて例外的に労働時間を増やす場合には、あらかじめ労使協定を締結し、それを所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります[14]。この協定は一般に「36協定」と呼ばれています(36協定で留意すべき事項に関する指針 厚生労働省)。

 

36協定で延長できる労働時間にも当然限度があります(表2)。

 

この上限は働き方改革に伴う法改正で新たに規定され、違反した場合には罰則も設けられており、2020年4月から大企業だけでなく中小企業にも適用されています。しかし、業種や職種によっては著しい繁忙期や緊急対応が必要な場合など、どうしても上限基準を守り切れない場合もあるでしょう。

 

そのような場合は「特別条項付き」36協定を結ぶことで、例外的にこの上限をさらに超えた時間外労働が可能になります。これについても所轄の労働基準監督署への様式書類の提出が必要です。

 

参考: 36協定届の記載例 厚生労働省

参考: 36協定届の記載例 特別条項 厚生労働省

 

但し、臨時的な特別の事情があり労使間で合意があったとしても、①時間外労働は年720時間、②時間外労働+休日労働は2~6か月平均80時間以内月100時間未満という条件が課せられます。

また、原則である月45時間を超えられるのは年間6か月までです。

 

なお、建設事業や自動車運転業務など、特定の事業・業務については上限規制適用が5年間猶予されます[15]

 

(4) 休憩、休日

4つ目のポイントは休憩や休日についてです。

① 使用者は労働者に対し、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります[16]

 

② その休憩時間は一斉かつ自由に利用させなければなりません[17]

なお、労働者が休憩中でも電話や来客の対応をするよう指示されている場合、労働時間とみなされる場合もあります。

 

③ 原則として、使用者は労働者に対し、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を認めなくてはなりません[18]。そして、休日に労働させる場合には前述の通り、36協定の締結と届出が必要となります。

 

(5) 割増賃金

労働者に対し、時間外労働、休日労働、深夜労働(午後10時~午後5時)を行わせた場合には、使用者は割増賃金を支払う必要があります[19]

 

具体的な割増賃金率は以下の通りです。

① 時間外労働で25%以上(月60時間を超える時間外労働の場合は50%以上)

② 休日労働で35%以上

③ 深夜労働で25%以上

 

そして、割増賃金は以下の方法で計算します。

 

 

時給(1時間当たりの賃金額)×割増賃金率×時間外労働などの時間数=割増賃金額

 

たとえば、時給1,000円の場合に時間外かつ深夜労働で10時間働いた場合には、

◇1000円×1.5倍×10時間=15,000円 が残業代になります。

 

(6) 年次有給休暇

「年次有給休暇」とはいわゆる有給休暇の正式名称です。2019年4月施行の法改正により「年5日の有給休暇取得」が義務化されました[20]。その条件は以下の通りです。

① 試用期間を含む雇入れの日から6か月間連続勤務していること

② その全所定労働日の8割以上出勤した労働者であること

 

これらも全労働者が対象ですので、いわゆる契約社員やアルバイト・パ―トなども含まれます。

 

通常の労働者なら入社半年で10日、1年半で11日、2年半で12日など、最低限必要な付与日数が決められています(参考;厚生労働省労働基準法の基礎知識)。

 

また、週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の場合も同様に細かく条件が定められています。こちらも厚生労働省のHP(労働基準法の基礎知識)に詳細が掲載されていますので、参考にしてください。

 

なお、年次有給休暇の請求権は2年[21]ですので、前年度に取得されなかった有給休暇は失効せず翌年度に繰り越す必要があります。

 

(7) 解雇

使用者からの申し出による一方的な労働契約終了を「解雇」といいます。やむを得ず労働者を解雇する場合、解雇予告手当(平均賃金の30日分以上)を支給するか、または30日以上前に予告が必要です[22]

 

ただ、天変地異その他やむを得ない事情があるなど特殊な場合には例外が認められます。また、日雇いや2か月以内の短期雇用者などの場合もこの適用はありません。

 

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合にはその解雇は無効となる点[23]にも注意しましょう。

 

また、労働者が育児休業や介護休業などを申し出たことを理由とする解雇など、一定の場合には法律上解雇が禁止されているのでその点も理解しておく必要があります。

 

参考:労働契約の終了に関するルール 厚生労働省

 

(8) 就業規則

就業規則は、使用者と労働者の間で定める会社のルールです。常時10人以上の労働者を使用している場合は就業規則を作成し、労働者代表の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。就業規則を変更した場合も同様です[24]

 

就業規則には、表3のように、①必ず記載しなければならないこと(絶対的記載事項)と、②定めた場合に記載しなければならないこと(相対的記載事項)があります。

 

そして、できあがった就業規則は作業場の見やすい場所に掲示するなど、適切な方法(印刷物として配付したり社内LANなどによる公開も可)で労働者に周知しなければなりません[25]

 

厚生労働省では、詳しいモデル就業規則とその解説を公開していますのでぜひ参考にしてください(モデル就業規則(令和2年11月))。

 

(9) 最後に、使用者が気をつけたい罰則付き規定を以下の表4に示します。

 

こちらを参考に、少しでも不明な点は厚生労働省や専門家に相談しましょう。

 

3、まとめ

労働基準法は主に労働者の権利や立場を保護する目的で使用者に対し規制を定めているものです。同法に違反して罰則が適用されることがないよう、常に最新の情報を更新しておくことをお勧めします。

 

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は主にフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育など。英検1級。

[1] 参考:厚生労働省 労働基準法関係

[2] フリーランスや個人事業主、会社役員は「労働者」に当たらず、労働基準法の適用外。また、同居の親族のみの会社、家事使用人、公務員、船員なども労働基準法が適用されない場合がある。

[3] 参考:労働基準法に関する法制度 厚生労働省

[4] 参考:労働基準法の基礎知識 厚生労働省

[5] 労働基準法第15条第1項

[6] 労働基準法施行規則第5条第4項

[7] 労働基準法第11条 ただし慶弔見舞金や出張旅費、制服・作業着などは賃金には含まれません。

[8] 労働基準法第24条

[9] 労働基準法第17条

[10] 労働基準法第24条第2項

[11] 労働基準法第28条

[12] 労働基準法第32条

[13] 労働基準法第40条

[14] 労働基準法第36条

[15] 時間外労働の上限規制 わかりやすい解説 厚生労働省

[16] 労働基準法第34条

[17] 労働基準法第34条第2項、第3項

[18] 労働基準法第35条

[19] 労働基準法第37条

[20] 労働基準法第39条

[21] 労働基準法第115条

[22] 労働基準法第20条

[23] 労働基準法第16条

[24] 労働基準法第89条,90条

[25] 労働基準法第106条