フレックスタイム制とは/導入には労使の正しい理解が不可欠

働き方改革の施行や新型コロナウイルス感染症拡大などにより、社員が柔軟に働けるフレックスタイム制の導入を考えている経営者は多いことでしょう。

フレックスタイムというと、大半の方が「時間に縛られない自由な働き方」というイメージをお持ちだと思います。しかし、「自由といっても、好きなだけ働けるわけではない」「規定や労働契約など決めなければならないことがある」など、導入には制度内容や基本的なルールを、きちんと知っておく必要があります。

この記事では、フレックスタイム制の基礎知識から、導入のメリット、デメリットまで、わかりやすく解説します。

 

 

1.フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、一定の就業時間の範囲内で、始業時刻、終業時刻、労働時間を労働者自身が決められる制度です。

 

一般的な労働時間制度では、例えば、「9時〜17時(休憩時間を除く)」といった必ず勤務しなければならない時間帯が決められています。

 

一方、フレックスタイム制においては、いつ出社してもよい「フレキシブルタイム」と、必ず勤務しなければならない「コアタイム」という2種類の時間帯があります。

<引用元>厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

 

フレキシブルタイムとコアタイムの設定は任意です。例えば、「コアタイムは作らず、どの日もフレキシブルに出勤できるようにしたい」というような運用方法も可能です。

 

 

2.フレックスタイム制と残業代の関係

一般的な労働時間制度では、1日8時間、1週間に40時間を超える労働は、残業(法定時間外労働)となります。「じゃあ、フレックスタイム制ではいつからが残業になるの?」と気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

フレックスタイム制においては、あらかじめ労使協定で以下のような「清算期間」と「清算期間における総労働時間」を定め、それらを基準に残業を判定します。

 

  • 清算期間

「毎月1日から月末までの1カ月間」というように、従業員がフレックスタイム制で労働すべき時間を定める期間のことで、上限は3カ月です。

 

  • 清算期間における総労働時間

従業員が清算期間の中で労働すべき時間として定められた「所定労働時間」のことで、以下の式のように、法定労働時間の総枠(所定労働時間の上限となる労働時間)にする必要があります。

<引用元>厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

 

つまり、フレックスタイム制においての残業は、1日や1週間ではなく「清算期間」単位で考えます。そして、原則として「清算期間における総労働時間」を超過した労働時間は、法定時間外労働として残業扱いになります。その場合、超過した時間分の残業代を支給しなければなりません。

 

また、個々の働き方によっては、実労働時間が「清算期間における総労働時間」に満たないケースもあるでしょう。その場合は、「不足時間分の賃金をカットして給与を支払う」、または「不足時間を繰り越して、次の清算期間の総労働時間に合算する」といった対応をします。

 

従業員の裁量にまかせる部分が多いフレックスタイム制ですが、事業主もこうした適切な労働時間の管理や賃金の清算などを、日々行う必要があることに留意しましょう。

 

 

3.フレックスタイム制導入に必要な2つのこと

また、事業者がフレックスタイム制を導入する際は、必ず「就業規則等への規定」と、「労使協定で所定の事項を締結」しなければなりません。

 

  • 就業規則等への規定

就業規則などに、「フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻は、従業員の自主的決定に委ねる」という旨を定めます。

 

  • 労使協定で6つの事項を締結

労使協定で、フレックスタイム制に関する基本的な事項を定めます。どの事項も労使で十分に話し合いの上、定めることが大切です。

 

・フレックスタイム制の対象となる従業員の範囲

全従業員、特定の従業員、課、グループごとなど、さまざまな範囲で設定できます。

 

・清算期間

従業員がフレックスタイム制で労働すべき時間を定める期間です。

 

・清算期間における総労働時間

従業員が清算期間の中で労働すべき時間として定められた所定労働時間です。

 

・標準となる1日の労働時間

有給休暇時に支払う賃金の基礎となる労働時間です。清算期間内の総労働時間を、期間中の所定労働日数で割った時間を基準にします。

 

・フレキシブルタイム(任意)

いつ出社してもよい時間帯のことです。

 

・コアタイム(任意)

必ず勤務しなければならない時間帯のことです。

 

以上の2点を行えば、ご自身の事業にフレックスタイム制を導入することができます。

 

ちなみに、「こんなときは?」というときに役立つ事例や、届け出用紙の記載例などが、以下の厚生労働省のウェブサイトに掲載されていますので、確認してみてください。

 

<参考>厚生労働省 フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

 

 

4.フレックスタイム制のメリットとデメリット

では、フレックスタイム制を導入すると、従業員や事業主にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

 

  • フレックスタイム制のメリット
  • ワークライフバランスを図りやすくなる

従業員は自分の都合に合わせて、勤務時間帯を柔軟に設定できるため、仕事とプライベートの調整がしやすくなります。事業主も、社内のワークライフバランスを推進できます。

 

  • 優秀な人材が獲得できる

自由度の高い働き方が選べることは、会社のアピールポイントとなり、優秀な人材の採用や定着につながります。

 

  • 残業代が削減できる

従業員それぞれが効率的に時間配分をしながら働くことで、残業代を削減することができます。

 

  • フレックスタイム制のデメリット
  • 社内外の他者との連携が取りづらい

例えば、社内の他部署や取引会社と連携して何かを行う場合、打ち合わせや会議時間など、双方の都合を合わせるのが難しくなります。お互いのスケジュールをこまめに共有し合うなど、コミュニケーションをスムーズにできる工夫が必要です。

 

  • 自己管理のできない従業員には不向き

フレックスタイム制では従業員が自分で決めることが多いため、一人ひとりの自己管理がとても重要になります。それができない従業員は、「自由な働き方」ではなく、ただの「ルーズな働き方」になってしまう恐れもあります。ルールの周知徹底はもちろんのこと、フレックスタイム制で働ける従業員を限定するのも、一つの方法かもしれません。

 

 

5.まとめ

ご紹介したように、フレックスタイム制の導入には、これまでの就業規則や労使協定の見直しが必要になるなど、経営者が行うべきことがいろいろあります。また、導入後の社内での運用方法を含め、制度のしくみやルールについて、労使が正しく理解をしておくことも非常に大切です。そうしたことを踏まえ、導入は慎重に検討しましょう。

 

 

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。