契約書を作ろう/契約書を作成する際のポイントを解説

そもそも契約は原則として当事者の合意さえあれば成立する[1](諾成契約)ので、取引において契約書は必要条件ではありません。しかし、円滑にビジネスを進めるため、また、将来のリスクを回避するためにきちんとした契約書を交わすことは非常に重要です。

以下、契約書について簡単に説明します。

 

1,なぜ契約書を作成するのか

 

法律で定められた一定の例外(任意後見契約[2]や定期借地権設定契約[3]など)を除き、契約は当事者の申込と承諾という意思表示の合致があれば成立します。

 

つまり「契約書」は契約成立の必須要件ではありません。

 

ではなぜわざわざ契約書を作成するのでしょうか。その目的は以下の2つに大別できます。

 

(1)円滑なビジネス遂行のため

 

たとえば売買契約において、引き渡す商品の数量や、引き渡しの時期・場所、支払い額や支払い方法など、具体的内容が明確でなければ契約を遂行できません。

 

契約書がなく口頭の合意のみに基づいているとこれら詳細を忘れたりするたびに相互確認を要することになり、円滑な契約の履行が望めなくなってしまうこともあります。

 

この点、契約書が存在していれば、不明な点が生じた場合に、いちいち相手方に問い合わせなくとも契約書を確認すれば済むため、ビジネスがスムーズに進みます。

 

(2)将来のトラブル回避のため

 

一般的な契約書には、各当事者の具体的な権利義務内容が明示されるため、契約に関する相互の思い込みや誤認を防ぎ、結果として将来的なトラブルのリスクを軽減できます。

 

記録が残ることで、のちに「言った」「言わない」といったトラブルを防げますし、訴訟などに発展した場合にも、契約書を裁判所に提出することで自らの主張を支えるための証拠性を強化できるのです。

 

2,契約書の体裁

 

契約書にはどうしてもこれでなければいけないといった体裁はありませんが、一般的に使われる雛形のようなものは存在します。以下、一般的な契約書の体裁を簡単に説明します。

 

(1)題名(タイトル)

 

通常、契約書の冒頭には「売買契約書」「賃貸借契約書」など、それが「何に関する契約なのか」を明らかにするための題名を入れます。ただし、必ずしも「契約書」という名称でなく、たとえば「覚書」「合意書」「規約」というような題名であってもかまいません。

 

また、「題名」そのものに法的根拠があるわけではないので、そもそも題名がなかったとしても、また、実際の中身と題名がずれていたとしても法律上問題はありません。

 

ただ、トラブル回避のためにはやはり契約内容の実質に合った題名を付けるのが無難でしょう。

 

さらに、「〇〇契約書」と題名をつけるのが困難な場合は、単に「契約書」とだけ記すこともできます。

 

(2)前文

 

題名の次に、契約書には前文をおくのが一般的です。たとえば、「株式会社〇〇(以下、甲という)と、有限会社△△(以下、乙という)は、□□に関して、以下のとおり◇◇契約を締結した」というような文面です。

 

これは、まず「契約の当事者が誰であるか」および「何に関する契約であるか」を明確にし、かつ、以降の各条項において当事者名称のフルネームを記載していく煩わしさを避けるための文です。

 

もちろん「甲」「乙」にしなければいけないという決まりはないので、略語は当事者で話し合い、自由に決めてかまいません。

 

 

(3)契約基本条項(本文)

 

前文の後はいよいよ契約基本条項(本文)に入ります。

 

① 定義条項

 

まず「本件商品とは、□□のことを意味する」など、契約書内で使用される用語の意味がお互い曖昧にならないよう、その定義を明らかにしておきましょう。

 

また、専門用語の使用は後々トラブルを招きがちです。専門用語の意味は明確にしておき、かつ、同じ契約書の中では、特定の用語が同じ意味になるよう統一して使用してください。

 

② 双方の権利義務

 

そもそも契約書を作成する目的は、誰がどのような権利義務を有するかを明確にすることで、ビジネスを円滑に進めたり、将来的なトラブルを回避するためです。したがって、双方当事者にどのような権利義務があるのかを具体的に示しましょう。

 

たとえば商品の売買契約であれば、その名称、単価、数量、引き渡し場所およびその日時、支払い金額、支払い時期およびその方法などを明らかにする必要があります。

 

また、後日のトラブルを避けるためにも、配送や支払いにかかる各種手数料をどちらが負担するのかなどは、事前に取り決めておくと良いでしょう。

 

③ 損害賠償について

 

契約に伴って生じる損害の賠償については、その具体的な条件と賠償範囲や支払い時期、遅延損害金などについて明らかにしておく必要があります。

 

さらに、債務不履行の原因が自然災害やテロ、戦争など不可抗力による場合の免責事項を決定しておいたり、その場合のリスクをどちらがどの程度負担するのかといった危険負担に関する条項も備えておくと安心です。

 

④ 権利義務の譲渡禁止

 

本来、契約は、相手方の資力に対する信用や既存取引の有無など、相互の信頼関係に基づいて成り立つものです。したがって、突然相手が債権や債務を勝手に譲渡し、それにより相手方当事者の変更が発生すると、培われてきた信頼関係が損なわれますし、二重払いの危険も生じるなど、取引における混乱が予想されます。

 

そこで、従来、そのような混乱を防止するべく、多くの契約書において権利義務の譲渡禁止や制限条項を設けることがありました。

 

しかし、2020年4月施行の改正民法において、たとえ契約上債権譲渡禁止や譲渡制限の合意があったとしても債権譲渡は有効であるとされました[4]

 

そこで、もはや債権譲渡禁止条項を設ける意義はないようにも思われます。

 

とはいえ、譲渡制限につき悪意又は重過失の第三者に対しては履行を拒絶したり供託するなどして対抗できるよう、債務者に対する救済措置なども設けられました[5]し、その観点からは、譲渡制限条項を規定する意義はなお残っていると考えられます。

 

さらに、譲渡禁止違反の債権譲渡に対する違約金や契約解除などのペナルティを明記するなどして、できる限り規約違反の債権譲渡を防ぐ手立てを用意しておくことが望ましいでしょう。

 

⑤ 契約解除事由

 

契約を解除したいと思っても、その要件や方法が明らかでないと解除権を行使できません。そこで、具体的にどのような場合に誰がどんな方法で契約を解除できるのか、解除の要件や催告の期間、解除の通知方法などにつきあらかじめ明確にしておきましょう。

 

⑥ 反社会的勢力排除に関する条項(反社条項)

 

企業が暴力団に対し金員その他の利益を供与する事は禁止されています。しかし、最近では、暴力団は自ら暴力団とは名乗らず、企業などを隠れ蓑にして社会に紛れ込んでいるのが実情です。

 

万が一「取引先が実は暴力団だった」と後に判明した場合、企業の信用が損なわれますし、役員などが責任を追及される場合もあります。「知らなかった」では済まされません。

 

そこで、そのような事態を防ぐため、契約書や誓約書などにおいて、反社会的勢力を排除するための条項(=反社条項)を設けておきましょう。

 

⑦ 秘密保持条項

 

企業の機密情報は大事な資産であり、それが漏洩すれば企業の存続に関わる重大な事態にも陥りかねません。しかし、取引上、どうしても相手方に、自社の機密情報に触れられる機会もあるでしょう。

 

そこで「取引上知りえた機密情報を第三者に開示してはならない」という趣旨の秘密保持条項を設けることが重要になります。

 

⑧ 契約期間

 

契約期間を表記する際は、曖昧な表現にならないよう注意して、期間の初めと終わりを一義的かつ明確に示しましょう。

 

たとえば「本契約の期間は、令和3年6月1日から令和3年12月31日とする」といった書き方をお勧めします。

 

⑨ 訴訟管轄の条項(合意管轄)

 

もし合意管轄の条項がないと、遠方での裁判を強いられる危険があります。

 

そうすると、裁判所所在地に赴く旅費や時間がかかりますし、代理人弁護士が遠方の裁判所に行くたびに旅費日当がかかることになってしまい、費用が膨大になりかねません。

 

そこで、あらかじめ自社にとって交通の便が良い場所にある裁判所を「専属的合意管轄とする」旨の条項を設け「その他の裁判所を管轄としない」という意思を明確にすることが望ましいでしょう。

 

(4)後文

 

契約の最後には後文を設け、当該契約書を何通作成したのか、そしてそれぞれを誰が所有するのか、明記しておきます。

 

(5)日付、署名

 

最後に、契約締結日及び契約締結者の署名が必要になります。契約締結者とは、企業が当事者である場合、原則として代表取締役ですが、支配人や当該契約締結につき権限を付与された担当者の場合もあります。

 

その際、契約者名は企業になること、また、担当者の肩書とその署名も必要になることなどに気をつけてください。

 

脱印鑑化が進んできている現状ではありますが、やはりまだ契約書に捺印を要求されることも多いと思われます。その場合にはできるだけ公式に使用される会社の実印などを使いましょう。

 

3,契約書の書式

 

(1)印紙

 

一般的に契約書には収入印紙を貼付する必要があります。収入印紙とは、印紙税の納税を証明するための切手のようなもので、郵便局やコンビニなどで購入できます。

 

印紙税は、日常の経済取引に伴って作成する契約書や金銭の受取書(領収書)など特定の文書に課税される税金です[6]

 

といっても、すべての契約書に印紙税が必要なわけではありません。不動産売買契約書や金銭消費貸借契約書などは印紙税を必要としますが、労働者派遣契約書やリース契約書、電子契約書においては不要です。

 

詳細は印紙税法別表第一の課税物件表に列挙されていますので、当該契約書が印紙税の課税対象かどうかやその金額については 国税庁HP印紙税などとあわせてご確認ください。

 

なお、収入印紙は単に購入しただけで納税を証明できるものではありません。所定金額分の収入印紙を契約書に貼付し消印を押すことで完成します。

 

たとえ少額であったとしても、支払うべき税金の不払いがあっては信用にも関わります。収入印紙の要否やその金額につき少しでも不明な点がある場合は専門家に相談すると良いでしょう。

 

また、収入印紙の金額をどちらが負担するかについてもあらかじめ当事者間で取り決めておきましょう。

 

(2)契印と割印

 

① 契印

 

契約書が1枚ではなく複数ページにわたる場合、その書面が1つの連続した文書であることを証明するため2つのページにまたがって押印するのが契印です。通常はすべての見開き部分に押印しますが、製本されている場合は表か裏の表紙だけでよいなど、例外もあります。

 

これにより、契約書の一部を不正に抜き取ったり差し替えたりされることを防ぎ、書類の一体性・連続性を保つことができます。

 

②割印

 

これに対し、割印は、複数の契約書を作成した場合に、その各部が同一内容の書類であることを示すため、そして一部が不正にコピーされたり改ざんされることを防止するための押印です。

 

したがって、割印は、全ての契約書の各部を重ねた箇所にまたがるように押印することになります。

 

契印も割印も、契約書で押印したものと同じ印鑑を用いましょう。また、原則として、契約に署名捺印した全員の押印が必要である点にもご注意ください。

 

4,まとめ

 

契約書は、当事者のうちどちらが作成するのか特に決まりはありませんが、ビジネスでは売り手側が提示するのが通例です。

ただ、自ら契約書を用意することで、自社に有利な条件を提示できるメリットもありますので、可能なら自社での作成をお勧めします。

 

とはいえ、損害賠償の取り決めや収入印紙の問題など、注意点も少なくありません。後日のトラブルを回避するためにも、不明な点があれば専門家に相談・依頼して、出来るだけ納得のいく契約書を用意しましょう。

 

執筆者:豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在は英語講師やライター業務等に従事。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題、英語教育など。英検1級。

[1] 法律上、例外的に書面による契約書が必要な場合もある。

[2] 任意後見契約に関する法律第3条

[3] 借地借家法第22条

[4] 改正民法第466条第2項

[5] 改正民法第466条第3項、同466条の2ほか

[6]  国税庁HP「印紙税」 より