合資会社とは/起業の選択肢になり得るか?

法人を設立する際の会社形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類があります。

 

今回は会社形態のひとつである「合資会社」の特徴やメリット・デメリットについて解説します。

 

会社設立の際に選択されるのは株式会社と合同会社がほとんどです。どうして合資会社を選ぶ人が少ないのか?その理由を説明します。

 

1.合資会社とは

合資会社とは、「有限責任社員」と「無限責任社員」で構成される会社形態です。ここで言う「社員」は従業員ではなく「出資者」を指します。株式会社なら株主、合資会社だと経営に携わる出資者のことです。

 

有限責任社員は責任の範囲が出資金に限定されるので、会社が倒産しても出資した金額を失うだけで済みます。

 

無限責任社員は、出資金額の範囲にとどまらず無限に責任を負わなくてはいけません。会社が借りたお金を返済できない時には、無限責任社員が代わりに支払います。

 

会社形態ごとの責任範囲の違いはこちらです。

 

株式会社:有限責任社員のみ

合同会社:有限責任社員のみ

合名会社:無限責任社員のみ

合資会社:有限責任社員と無限責任社員、各1名以上

 

もしもの時のことを考えると、責任範囲の狭い「有限責任社員」のほうが良いですよね。それなのに、合名会社と合資会社がある理由は、2006年の会社法改正と関係しています。

 

改正前は、株式会社設立のための最低出資金は1,000万円、有限会社でも最低300万円の出資金が必要で、合名会社と合資会社は出資金の取決めがありませんでした。

しかし、改正後は出資金1円でも株式会社や合同会社が設立できるようになったという背景があります。(有限会社の新設は廃止)つまり、合名会社と合資会社は、費用をかけずに法人設立したい人の選択肢となっていた改正前の会社法の名残といってもいいかもしれません。

 

2.合資会社のメリット、デメリット

無限責任社員が必要となる合資会社は、一見するとメリットよりもデメリットが大きい気がしますよね。次は、合資会社のメリットについて考えてみましょう。

 

(1)合資会社のメリット

設立費用が安い

合資会社のメリットは株式会社に比べると設立費用が安いこと。株式会社は約25万円かかりますが、合資会社だと10万円程度で済みます。合資会社は定款の認証が必要なく、登録免許税も安いからです。

 

また、株式会社は官報に決算を公表するために掲載料約6万円が毎年かかります。決算公示義務のない合資会社は、掲載料を支払う必要がないのでランニングコストも節約できます。

 

設立費用の安さや決算公示義務がない点は合同会社・合名会社も同じです。

 

資本金が必要ない

会社形態ごとの資本金に関する決まりは以下の通りです。

 

株式会社:資本金1円以上(信用や労務の出資はNG)

合同会社:資本金1円以上(信用や労務の出資はNG)

合名会社:資本金の制限なし(信用や労務の出資でもOK)

合資会社:資本金の制限なし(無限責任社員のみ信用や労務の出資でもOK)

 

合資会社は資本金に関する制限がなく、無限責任社員のみ金銭以外の信用や労務(将来の働き)の出資も可能です。

 

法人税が適用される

法人税が適用される合資会社は、個人事業主よりも税金を節約できるのがメリット。法人税に関しては、他の会社形態を選んだ場合にも同様のメリットがあります。

 

社会保険に加入できる

個人事業主は社会保険に加入できませんが、合資会社を設立すれば社会保険に加入でき、病気や怪我で働けなくなった時に手当金を受け取れます。将来の年金額が増えるのもメリットだと言えるでしょう。

 

ただし、他の会社形態でも社会保険に加入できるので、合資会社だけのメリットではありません。

 

経営の自由度が高い

合資会社の魅力は、株式会社よりも経営の自由度が高いこと。企業の所有(株主)と経営(経営者)が分離されている株式会社は、株主が経営者を選び、自分が所有している会社の経営を任せることになるため、当然、経営者は株主の意向を汲みながら日々の事業運営を行わざるを得ません。

 

社員自身が会社の所有者の合資会社は、株主総会が存在せず経営方針を自由に決められます。それに加えて、株主総会を開く手間がかからないので、迅速に意思決定できるのもメリットです。

 

また、合資会社は会社法に違反しない限り定款を自由に定めることができます。決まり事が多い株式会社と比較すると、合資会社は経営に関する制約が少ないです。

 

なお、合同会社や合名会社でも合資会社と同じくらい自由度の高い経営が行えます。

 

(2)合資会社のデメリット

合資会社にはいくつかのメリットがあるとはいえ、資本金が必要ない点以外は合同会社でも同じメリットを享受できます。次は、合資会社のデメリットを他の会社形態と比較してみましょう。

 

無限責任社員の責任が重い

合資会社の最大のデメリットは、無限責任社員に会社の負債総額の全額を支払う責任が生じること。会社が債務を払いきれない場合には、無限責任社員が私財を投げうってでも弁済しなければなりません。

 

200万円を出資した有限責任社員は、会社の負債が500万円あっても責任が生じるのは200万円のみです。

 

無限責任社員は、会社の負債500万円全てに責任を負います。負債額によっては、自己破産に追い込まれるかもしれません。

 

最低2人の人員を常に確保する必要がある

株式会社・合同会社・合名会社は1人でも設立可能ですが、合資会社は無限責任社員1人と有限責任社員1人の計2人以上いないと設立できません。

 

会社法上は、無限責任社員が退職して有限責任社員のみになった場合には、合同会社となる定款の変更をしたとみなします。有限責任社員が退職して無限責任社員のみになった場合には、合名会社となる定款の変更をしたとみなします。あくまで合資会社の形態を保つためには、急いで後任を雇わなければなりません。

 

3.まとめ

合資会社について説明しましたが、結論としては無限責任のデメリットが大き過ぎるため、合資会社は起業時の選択肢になりにくいです。

 

会社法が改正され、株式会社や合同会社は資本金1円から設立可能です。その上、出資者は有限責任で無限責任よりもリスクを抑えられます。

 

これから会社を設立するのであれば、株式会社か合同会社の二択になるでしょう。

 

会社を大きくして株式上場を狙うなら株式会社、少ない費用で設立したい場合や節税のためだけに法人化する場合は合同会社が向いています。それぞれの違いを比較して、自分に合った会社形態を選ぶことが大切です。

 

 

 

執筆者:宮林 有紀(みやばやし ゆうき)

医療機関勤務を経てフリーライターへ転身。起業家向けメディアへの執筆をはじめ様々なジャンルのサイトにて執筆。