減価償却の基礎/減価償却費の計算方法を解説

個人事業主にとって頭の痛いことと言うと、減価償却費の計算ではないでしょうか。

帳簿にどう記載して良いかわからない、耐用年数の判断に悩んでしまう、減価償却の対象になるものとそうでないものの区別が難しいなど、確定申告する際、毎年同じことで考え込んでしまう人も少なくありません。

そこで本記事では、減価償却をスムーズにおこないたい人のために、減価償却の基礎と減価償却費の計算方法について、やさしく説明します。

 

1 減価償却とは

「減価償却」は、事業に必要な設備などの購入代金を分割し、1年ごとに計上する経理作業の一つです。減価償却の対象となるのは、社用車や家電製品、応接セット、パソコンなど、長期にわたり使用し続ける高額な固定資産です。そして、減価償却の対象となる資産は、「減価償却資産」と呼ばれます。

 

なぜ固定資産は、減価償却で計上する必要があるのでしょうか。それは、経理上のバランスを取るためです。

例えば、1,000万円をかけて店舗に新しい設備を導入したとしましょう。その年の収入が500万円で、そこから費用を差し引くと、500万円の赤字になってしまいます。では、新しい設備の寿命を10年として、10年かけて費用を計上するとしたらどうでしょうか。この場合、1年の費用は100万円となり、収入とのバランスが取りやすくなります。

 

減価償却は、年を追うごとに性能が落ち、価値が低下する資産を対象としています。つまり、長期間使用してもその価値が低下しないものは対象外、ということです。具体的にどのようなものがあるかというと、土地や美術品をはじめ、ゴルフ会員権、電話加入権、有価証券など多岐にわたります。また、事業用として使用されていないものや、10万円未満で購入したものも、減価償却資産には含まれません。

 

2 減価償却費を計算する前に

減価償却費を計算する際、最低限覚えておきたい用語は、「取得原価」「耐用年数」「残存価額」の三つです。それぞれの用語について説明します。

 

(1)        取得原価

「取得原価」とは簡単に言うと、購入時の価格のことです。例えば30万円でパソコンを購入した場合、「備品 30万円」(借方)「現金 30万円」(貸方)と仕訳します。この場合、30万円が取得原価となります。

 

(2)        耐用年数

「耐用年数」は、予測される固定資産の使用可能な期間のことを言います。耐用年数は法人税法によって定められていて、主な耐用年数については、国税庁のホームページで確認できます。

 

参考:減価償却資産の償却率表(国税庁)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf

 

中には、一覧表にない減価償却資産もあります。その場合は、所轄の税務署に問い合わせると良いでしょう。

 

(3)        残存価額

法的に定められた耐用年数を過ぎて残った価値を、「残存価額」と言います。2007年度の税制改正以前は、残存価額を「取得原価の10%」としていました。しかし、税制改正後(2007年4月1日以降)は、1円まで減価償却可能です。これにより、企業が設備投資しやすくなるなどのメリットが生まれました。

 

3 減価償却費の計算方法

減価償却費の計算には、「定額法」または「定率法」が使用されます。両者の違いをわかりやすく説明するために、450万円で購入した社用車を償却対象資産と想定して、それぞれの計算方法について説明します。

 

(1)          定額法

「定額法」とは、毎年「一定額」で減価償却していく方法です。1年間の減価償却費の計算式は以下のように求められます。

・取得価額×定額法償却率

 

「定額法償却率」は耐用年数ごとに設定されていて、国税庁のホームページで確認できます。

参考:減価償却資産の償却率表(国税庁)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf

 

定額法を使って事例を計算してみましょう。車の耐用年数は6年、定額法償却率は0.167ですので、減価償却費は450万円×0.167=751,500円です。

ただし、帳簿上に残存価額1円を残す必要がありますので、6年目の減価償却費は、742,500円(未償却残高)-742,499=1円とします。

 

(2)        定率法

「定率法」は、未償却残高に対して毎年「一定の割合」をかける計算方法です。そのため、減価償却費は初年度が一番高くなり、以降毎年下がっていきます。

定率法による、1年間の減価償却費の計算式は次のとおりです。

・未償却残高(取得年度は取得価額)×定率法償却率

「定率法の償却率」には、「旧定率法」「250%償却」「200%償却」と3種類ありますが、2012年4月1日以降に取得した減価償却資産に対しては、200%償却が適用されています(ここでは、200%償却で説明します)。

 

ただし、定率法には「償却保証額(取得原価×保証率)」と言う、その年の償却すべき最低金額が設けられています。「保証率」は、耐用年数によって異なります。

参考:耐用年数省令別表第九、十( e-Gov法令検索)

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340M50000040015

 

定率法では償却保証額と減価償却額を計算し、もし後者が前者を下回る場合は、「改定保証率(改定取得価額〈その年の期首未償却残高〉×改定償却率〈償却保証額を下回る年以降に適用される償却率〉)」で計算することになります。「改定償却率」は、耐用年数省令別表八および九と、耐用年数省令別表十に規定されています。

 

先程の事例を使って計算してみましょう。

450万円で購入した社用車(耐用年数6年)の定率法償却率は0.333、改定償却率は0.334、保証率は0.09911です。

 

この場合、償却保証額は、450万円×0.09911=445,995円となります。

3年目までは未償却残高×定率法償却率で減価償却費を計算していきますが、4年目は、減価償却費が償却保証額を下回ります。そこで、4年目以降は改定償却率(1,335,335×0.334=446,001円)を使います。

定率法減価償却費    (単位:円)

年度 償却限度額 未償却残高
1年目 1,498,500 3,001,500
2年目 999,499 2,002,001
3年目 666,666 1,335,335
4年目 446,001 889,334
5年目 446,001 443,333
6年目 443,332 1

 

定額法で計算しても、定率法で計算しても、耐用年数最終年にはどちらも残存価額が1円になります。しかし、毎年定額が減価償却されていく定額法に対して、定率法は、初年度の償却額が最大となり、年々減少していきます。定率法が、早い時期に利益が見込まれる場合に向いている計算法と言われるのは、こうした違いがあるからと言えるでしょう。

 

4 まとめ

本記事では、減価償却の基礎と計算方法について、説明しました。減価償却費の計算は、複雑で理解しにくいというイメージがありますが、ルールはとてもシンプルです。そのルールさえ覚えてしまえば、以前よりも確定申告で悩むことも少なくなるのではないでしょうか。今回ご紹介した基礎知識を参考にして、適切に減価償却をしていきましょう。

 

執筆者:佐藤 世莉(さとう せり)

英国の大学と大学院で社会学、国際政治学、国際関係学を学び、2018年、フリーランスのWebライターとなる。幅広いジャンルの記事を執筆し、得意分野はビジネス、起業、就職、教育。「考えて書く」ことをモットーに、Webコンテンツをはじめ文章構成や要約文、論文、翻訳など、さまざまなライティング活動を展開中。ロジカルシンキングマスター、論理的思考士、WEBライティング実務士の資格を保有。