パートと雇用保険/経営者が知っておくべきポイント

事業が軌道に乗ってくれば、人手が必要になり、従業員の雇用を検討することもあるでしょう。「正社員を雇う前に、まずはパートから…」と考える経営者も多いかと思いますが、その際、必ず知っておきたいのが雇用保険です。この記事では、雇用保険の基礎知識やパートの加入要件、雇用保険法について、わかりやすくご紹介します。

 

1.雇用保険とは

雇用保険とは、労働者が失業、休業をした場合や、雇用を続けることが困難となる事由が発生した場合、失業等給付、育児休業給付、教育訓練給付といった必要な給付金の支給などをする制度で、国の社会保険の一つです。

 

社会保険は、民間保険のように自由に加入するものではなく、法律で加入が義務付けられている保険です。要件に該当する事業者は、社会保険の「強制適用事業所」となり、事業主は雇用している労働者を社会保険に加入させなければなりません。

 

雇用保険においても、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態や、事業規模などに関わらず、労働者を一人でも雇っている事業者は原則として強制適用事業所です。ただし、加入が義務付けられているのは、以下の労働条件のいずれにも該当する労働者となります。

 

雇用保険の加入要件

・1週間の所定労働時間が20時間以上である

・31日以上の雇用見込みがある

 

したがって、雇用するパート労働者が2つの要件を満たす場合、必ず雇用保険に加入させなければなりません。

 

「31日以上の雇用見込み」については、「これは該当するの?」と悩む方もいらっしゃることでしょう。

例えば、雇用期間を決めずに雇用する場合や、1カ月契約の雇用であっても更新規定を明示している場合などは、31日以上の雇用見込みがあると判断されます。

 

<参考>厚生労働省【被保険者の詳細、被保険者となる具体例について26P】

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000637955.pdf

 

雇用保険の加入手続きを行う際は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署、ハローワークへ書類の提出が必要です。届け出書類は、ハローワークに取りに行くか、ハローワークのホームページからダウンロードすることもできます。

 

事業内容によっては、必要書類や提出先が異なる場合もあります。届け出を行う前に、労働基準監督署やハローワークに問合せをしておいた方が安心でしょう。

 

<参考> 厚生労働省 雇用保険制度

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index_00003.html

 

 

2.雇用保険法とは

雇用保険について定めた法律が「雇用保険法」で、失業等給付、求職者給付、教育訓練給付、介護休業給付、育児休業給付といった各種給付のことをはじめ、さまざまなことが定められています。

 

中でも、事業者が特に確認しておきたいのが第二章の「適用事業等」です。この部分の(適用事業)、(適用除外)は、前述した雇用保険の強制適用事業や加入要件に関する内容となります。

 

正社員の雇用と違い、パート労働者は雇用時間が短かったり、多忙な季節限定の雇用だったりと、いろいろな雇用スタイルがあると思います。

 

少し手間はかかりますが、パートを雇用する際は、雇用保険法を参照しながら一人ひとり加入要件に該当するかどうかを確認するようにしましょう。

 

雇用保険法(抜粋)

 

第二章 適用事業等

 

(適用事業)

第五条 この法律においては、労働者が雇用される事業を適用事業とする。

 適用事業についての保険関係の成立及び消滅については、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号。以下「徴収法」という。)の定めるところによる。

 

(適用除外)

第六条 次に掲げる者については、この法律は、適用しない。

 一週間の所定労働時間が二十時間未満である者(この法律を適用することとした場合において第四十三条第一項に規定する日雇労働被保険者に該当することとなる者を除く。)

 同一の事業主の適用事業に継続して三十一日以上雇用されることが見込まれない者(前二月の各月において十八日以上同一の事業主の適用事業に雇用された者及びこの法律を適用することとした場合において第四十二条に規定する日雇労働者であつて第四十三条第一項各号のいずれかに該当するものに該当することとなる者を除く。)

 季節的に雇用される者であつて、第三十八条第一項各号のいずれかに該当するもの

 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条、第百二十四条又は第百三十四条第一項の学校の学生又は生徒であつて、前三号に掲げる者に準ずるものとして厚生労働省令で定める者

 船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条に規定する船員(船員職業安定法(昭和二十三年法律第百三十号)第九十二条第一項の規定により船員法第二条第二項に規定する予備船員とみなされる者及び船員の雇用の促進に関する特別措置法(昭和五十二年法律第九十六号)第十四条第一項の規定により船員法第二条第二項に規定する予備船員とみなされる者を含む。以下「船員」という。)であつて、漁船(政令で定めるものに限る。)に乗り組むため雇用される者(一年を通じて船員として適用事業に雇用される場合を除く。)

 国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの

 

<引用元>雇用保険法

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=349AC0000000116_20180706_430AC0000000071&openerCode=1

 

 

3.まとめ

パートを雇う際の雇用保険についてご紹介しました。お忙しい中で、法律を調べたり、手続きをしに出かけたりするのは大変なことと思います。しかし、本文でも触れたように、加入要件を満たす従業員の雇用保険加入は法律で義務付けられており、違反した場合、罰則の対象となります。パートに限らず従業員を雇用するときは、雇用保険の確認や手続きを忘れずに行いましょう。

 

 

執筆者:吉田 裕美(よしだ ゆみ)

金融機関勤務を経て、フリーライターへ転身。

お金に関するコラム執筆をはじめ、企業のWebコンテンツやメルマガ制作など、幅広いジャンルのライティングに携わる。ファイナンシャル・プランニング技能検定2級。