これから起業を考えている人は避けて通ることができないスキルである、財務分析。
数値に基づく正確な財務分析を行うことにより、自社の財務状況を客観的に把握しつつ、問題点を早期に発見することで、経営上の判断に役立てることが可能です。
この財務分析には様々な指標があるのをご存知でしょうか?
今回は、多数ある指標の中から収益性と安全性を示す基礎指標として「損益分岐点比率」と「安全余裕率」について詳しく解説していきたいと思います。
1.損益分岐点比率とは?
損益分岐点比率とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の比率を計算した指標です。
この比率を計算するためにはまずは「損益分岐点」について理解する必要があります。
損益分岐点とは、企業が利益をあげられるようになるための最低限必要な売上高です。
以下の計算式で利益=0になる売上高を求めます。
売上−費用=利益
費用には2種類あります。
- 変動費 原材料費、仕入原価、外注費、販売手数料など
- 固定費 人件費、地代家賃、リース料、広告宣伝費、原価償却費など
それでは具体的に数字を入れて考えてみましょう。
例:1個200円の商品を販売します。原価は一個あたり100円。家賃などの固定費は40,000円です。400個の商品が売れたとすると、
売上高=200円×400個=80,000円
費用=100円×400 + 40,000円=80,000円
そのため、この場合の損益分岐点は80,000円となります。
つまりこの商品は400個以上売り上げることで、初めて利益が出ることがわかります。
さて、次は損益分岐点比率について解説していきましょう。
損益分岐点比率は以下の計算式で求めることができます。
損益分岐点比率(%)=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100
この損益分岐点比率の目安ですが、企業の規模や業種によって大きく異なります。
数値が低いほど良く、売り上げ低下による影響が少なく、不況抵抗力が強いとされています。
あくまでも一般的な水準としては以下のように言われています。
- 70%以下
現在の事業環境は良好であり、安定的に利益を獲得できる状態です。
- 70%〜90%
平均的な事業環境です。利益獲得はできているが、環境の変化によっては状況が暗転することもあります。
- 90%以上
かなり危険な水準です。早急に事業環境の改善を図る必要があります。
- 100%以上
現時点で損失が計上されている状態です。大至急対処しないと倒産する可能性もあります。
それでは、先ほどの例に置き換えて考えてみましょう。
実際の売り上げが100,000円だったとします。
80,000円÷100,000円×100=80%
損益分岐点比率が80%となり、安定的に利益獲得はできているが、今後の環境の変化によっては対策が必要になる可能性があると評価できます。
損益分岐点比率は一度計算すればよいというわけではなく、定期的に比率を見直すことが重要です。
売り上げの増減やそれに対する費用の変動など、比率を変化させる要因はたくさんあります。
上記の目安を参考にしながら、損益分岐点比率の変化を適切に把握し続け、自社事業が適切な規模を維持しているか確認することが大切です。
2.安全余裕率とは?
安全余裕率とは、実際の売上高と損益分岐点の差がどれくらいあるのかを表す指標です。
安全余裕率を見れば、現在の売上高がどれくらい増減したら損益分岐点になるのかがわかります。
安全余裕率は経営の余裕度を示しており、数値が高いほど経営に余裕があると言えるでしょう。
計算式は以下の通りです。
安全余裕率(%)=(実際の売上高−損益分岐点売上高)÷実際の売上高×100
先ほどの例に数字を当てはめて考えてみましょう。
1個200円(原価100円/個)の商品を100,000円売り上げました。
損益分岐点売上高は80,000円でした。
(100,000円−80,000円)÷100,000円×100=20%
この場合の安全余裕率は20%となりました。
日本企業の安全余裕率の平均的数値は10%〜20%と言われています。
安全余裕率の一般的な目安としては、
20%以上 安全(売り上げの変化に強い)
19%〜10% 比較的安全(多少の売上減少は可)
9%〜0% やや危険(赤字直前)
マイナス 危険(赤字)
となっており、数値が低ければ低いほど経営が悪化しているという目安になります。
もしこの安全余裕率が低下、もしくはマイナスの場合には早急に現状を改善する必要があり、その対策方法は大きく分けて以下の3つが考えられます。
- 固定費を下げる(家賃や人件費、広告宣伝費を抑えるなど)
- 変動費を下げる(原材料費、運送費などを抑えるなど)
- 売上を増やす(販売数を増やす、単価をあげるなど)
簡単に言えば、コストカットを進めて売上を上げるということなのですが、実際はかなりの企業努力が必要な部分だと思われます。
3.損益分岐点比率と安全余裕率
実はこの二つの指標は、足すと必ず100になる補数の関係性があります。
上の事例で計算した値も、損益分岐点比率80%に対し、安全余裕率は20%となっており、足して100%になっています。
計算式で見てみると
安全余裕率(%)=100−損益分岐点比率
損益分岐点比率(%)=100−安全余裕率
となります。
4.まとめ
今回解説した、損益分岐点比率と安全余裕率はいずれも損益計算書から読み取ることができる、代表的な財務指標です。
自社事業の収益性と安全性の分析には欠かせない指標でありであり、この二つの指標の本質を理解するとともに、事業活動の収支構造を明らかにし、効率的なコストカットや、商品、製品の適切な品質管理に繋げていきましょう。
金融機関でのファイナンシャルプランナー業務を経て、フリーのライターに転身。金融や教育など幅広い分野のライティング業務に携わる。2級ファイナンシャルプランニング技能士や保育士など資格取得も積極的に行う。