試用期間中の解雇/試用期間といえども本採用とほぼ同じ

一般的に労働者を採用するか否かは、履歴書や面接により判断されますが、それだけで実際にその人物が自社に適した人物であるかどうかは分りません。そこで、労働者の能力や適性などを見極めるために設けられたお試しの雇用期間のことを試用期間といいます。本採用前なので、試用期間中の解雇は簡単に認められそうですが実は違います。そこで、試用期間中の解雇が認められるためにはどのような要件が必要なのかみてみましょう。

 

1.       試用期間とは

試用期間とは、労働者を採用するにあたり、その能力や適性、就労態度などについて見極めるためのお試しの雇用期間のことで、法律上明確な規定があるわけではありません[1]

 

そして、試用契約は使用者による解約権留保付き労働契約であると解されています。

 

通常、解雇については「就業規則に解雇理由を記載すること」[2]や「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当と認められること」をはじめ、各種厳格な要件が必要とされます[3]

 

しかし、試用期間は労働者の適格性を判断するための試験的採用期間ですから、通常の雇用契約における解雇の場合よりは広い範囲で解雇の自由が認められると解されています。

 

他方、試用期間とはいえ労働者にとっては継続的な就労への期待が生じますし、試用期間中には他の企業への就職活動が妨げられるなど労働者が不安定な立場に置かれる事実を考慮すれば、やはり使用者に恣意的な解雇権を認めることはできません。

 

そこで、試用期間中の解雇は、解約権留保の趣旨・目的に照らし客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限り有効とされています(以上三菱樹脂本採用拒否事件 最判1973年12月12日神戸弘陵学園事件最判1990年6月5日ほか)。

 

2.       試用期間中に解雇できる場合とは

前述のとおり、試用期間中の解雇は通常の解雇よりやや広い範囲で認められるとはいえ、その要件が大きく変わるわけではありません。

まず前提として、試用期間中であれ解雇である以上、その解雇事由が就業規則に規定されている必要があり[4]、かつ、その就業規則が周知[5]されている必要があります。

 

そして、過去の裁判例などからは、以下のような各場合が試用期間中の解雇(試用期間満了時の本採用拒否も含む)事由になると解されます。

 

(1)  正当な理由のない遅刻・早退・欠勤を繰り返す

単に遅刻・欠勤があったからといってすぐ解雇できるわけではありません。あくまでも正当な理由のない遅刻・早退や無断欠勤が繰り返され、しかも、そのことにつき複数回にわたり指導や注意を受けたのに直そうとしないなど、悪質な事案に限り認められることが多いようです。

 

ですからたとえば病欠の場合で、かつその事情につき事前に連絡がある場合などはこれに当たりません。

 

また、そもそも欠勤理由が業務に基づく傷病である場合には、通常の解雇同様、解雇制限[6]が課せられるため、解雇は認められないでしょう。

 

◇参考:モービル石油事件(東京高判1977年9月29日)

試用期間中の従業員が刑事事件に関して逮捕・勾留され、長期にわたり出勤できなくなった場合になされた解雇が有効と判断された。

 

(2)  重大な経歴の詐称

採用の際の履歴書や面接において重大な経歴詐称があった場合、試用期間中の解雇が認められやすいといえます。

 

ただ、この場合も、単にうっかり履歴書に記載ミスがあったという程度では足りず、故意に懲戒解雇歴や犯罪歴等を秘匿していたり、特定の資格が必要な職務への就職にあたりその資格を偽っていたりするような悪質な場合に認められます。

 

この点、採用試験の際に在学中過激な学生運動に参加していた事実を秘匿していた労働者につき、その事実が試用期間中に判明したため企業の管理職としての適性を欠くとして本採用の拒否が認められた事案があります(前出三菱樹脂本採用拒否事件 最判1973年12月12日)。

 

他方、三愛作業事件(名古屋地判1980年8月6日)では、詐称された経歴が業務と関連性が低く、かつ、詐称の程度が軽微だったとして試用期間中の解雇が認められませんでした。

 

(3)  反抗的で勤務態度が極めて悪い場合

同僚との協調性に欠ける、取引先との間でトラブルを起こす、研修等で上司の指示に従わない、さらにそれらにつき注意を受けても反抗的な態度を取るなど、職場での勤務態度に明らかな問題がある場合には解雇が認められる傾向にあります。

 

◇参考:ユオ時計事件(仙台地判1978年3月27日

上司の指示・命令に対する無視的態度、上司や得意先に対する言葉遣いや態度の劣悪さ、同僚らとの間の協調性の欠如等及びこれらの行為に基因する営業上の支障の発生(取引停止等)等「諸般の事情」を総合的に判断して、試用期間中だった当該従業員の一連の行為が、就業規則所定の解雇事由に該当すると認定された。

 

他方、麹町学園事件(東京地判1971年7月19日)においては、問題ある服装や勤務態度について、なんら上司や先輩教師による指導をなさないまま、大学卒業後の新人教員を突如解雇した件につき、解雇権の濫用として解雇が無効とされました。

 

◇参考:大同木材工業事件(松江地判1971年10月6日

◇参考: 三井倉庫事件(東京地判2001年7月2日

 

(4)  能力不足・意欲不足

技術や能力に不足があるといっても、一般的には、使用者が十分に指導教育や研修の機会を与え、解雇回避の努力を尽くしたにもかかわらず改善が見込めないなどの事情が必要です。

 

たとえば日本基礎技術事件(大阪高判2012年2月10日) では、試用期間中、4か月ほど繰り返し行われた指導によっても改善の程度が期待を下回ると判断された従業員が解雇され、その解雇の有効性が争われました。

 

この点、裁判所は、使用者が本採用すべく十分な指導、教育を行っており解雇回避の努力を怠っていたとはいえないとし、また、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みが立たなかったとして、当該解雇を有効と判断しました。

 

◇参考: 三井倉庫事件(東京地判2001年7月2日) 、ブレーンベース事件(東京地判2001年12月25日

 

3.       試用期間中の解雇手続

ひとくちに試用期間中の解雇といっても、試用開始から14日間経過前後では取扱いが異なります。

 

(1)  試用期間開始14日以内の場合

試用期間開始14日以内の場合、30日以上前の解雇予告またはこれに代わる解雇予告手当の支払い[7]が不要であるとされています[8]

 

したがって即時解雇も可能ですが、やはり恣意的な解雇が許されるわけではありません。

 

あくまでも就業規則上の解雇に該当する事由があり、かつ、その解雇事由および解雇手続には、合理性と相当性が必要です。

 

(2)  試用期間開始14日を超える場合

これに対し、試用期間開始14日を超える場合には、通常の解雇と同様、少なくとも30日以上前の解雇予告[9]や解雇予告手当が必要となります[10]

 

◇参考:ソニー事件(東京高判1968年3月27日)

「14日を超える試用契約」については「労働基準法第21条但書第4号が解雇について規定するところに象徴されるように、本採用による期間の定めのない労働契約における解雇の場合と同様に取り扱われるべき」であると判断した。

 

(3) 試用期間中でも具体的な解雇の手続は通常の解雇とほとんど同じ

試用期間中の解雇でも、通常の解雇と同様、解雇の検討、労働者に対する弁明の機会付与、解雇理由を記した解雇通知書作成、同交付、要請があれば解雇理由証明書[11]の作成及び交付等が必要ですので、ご注意ください。

 

4.       試用期間中に解雇する場合の留意点

(1)  新卒者や未経験者

この点、新卒採用者や未経験者は、通常スキルや経験が不足している以上、これらを採用する場合は、即戦力としてではなく今後の成長や能力・技術力の向上を期待して採用するのが一般的です。

 

そこで、試用期間中の安易な解雇は許されず、比較的長期にわたって十分な指導教育を行っても向上の見通しが立たないような場合に限り認められます。

 

(2)  経験者の場合

他方、即戦力として期待される経験者であるから、成績不良を理由に即解雇できるかというとそうでもありません。

 

この点、ニュース証券事件(東京高判2009年9月15日)では、他の証券会社で勤務していた従業員を即戦力として採用するにあたり6か月間の試用期間が設けられましたが、その成績がふるわず、営業担当の資質に欠けるとして、試用開始わずか3ヶ月余でなされた解雇が無効と判断されました。

 

経験者とはいえ新しい環境で一定の成績をすぐに上げることは難しいのが通常ですから、使用者としても適性判断に6ヵ月が必要と考えて契約した試用期間の途中で、早計に結論を出したりせず、少なくとも試用期間として定めた期間満了までは見守るべきですし、その間も、積極的に指導・教育したり環境を整備するなど、解雇を回避するための努力が必要でしょう。

 

(3)  長すぎる試用期間や更新・延長には注意

試用期間の長さは特に法令等で明確に規定されていませんが、労働者の適格性を判断するためという試用期間の趣旨、および労働者の地位を不安定にしている事実に鑑みれば、あまりにも長期に設定することは相当ではないでしょう。

 

この点、ブラザー工業事件(名古屋地判1984年3月23日) 判決では、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは無効になると述べています。

 

もちろん業務内容や業種にもよりますが、就業規則上、試用契約の期間は2~3ヵ月から長くても1年程度が適切であり、これ以上長期になる延長や更新はできるだけ避け、仮に就業規則に規定したとしても、その適用は慎重にするべきでしょう。

 

(4) その他、解雇を避けるべき努力をはじめとする対応・手続の相当性

先述のニュース証券事件(東京高判2009年9月15日)でもふれたように、試用期間が6カ月あるのに使用者がなんら環境整備・指導等を行わず、わずか3カ月余で能力不足を理由に解雇することは、権利の濫用とされる可能性があります。

 

また、試用期間中の従業員が精神疾患に罹患したとして本採用を拒否された事案(ソニー事件 東京高判1968年3月27日)では、そもそもその診断内容自体の根拠が薄弱であるとし、また、十分納得のいく再検査をし、正確な診断を確定したうえで治療方策を立てる配慮をすべきであるにもかかわらず、あえて精神面のことにはふれず退職を勧告し本採用を拒否するなどした使用者の行為が権利濫用にあたると判断されました。

 

これらの裁判例より、使用者には、解雇を避けるための努力を尽くすことや、解雇理由等につき本人に説明および弁明の機会を十分与えるなど、社会通念上相当と認められるに足る手続を踏むことが求められていると考えられます。

 

5.       まとめ

以上みてお分かりのように、試用期間とはいえ一度労働者を採用すれば、ほとんど本契約と同様の法律関係が生じますので、この点に十分留意してください。

 

豊田 かよ (とよた かよ)
弁護士業、事務職員等を経て、現在はフリーのライター。得意ジャンルは一般法務のほか、男女・夫婦間の問題や英語教育等。英検1級。

[1] ただ、労働基準法第21条第4号は、試用期間開始14日間経過後には解雇予告が必要であることに言及している。

[2] 労働基準法第89条第1項3号

[3] 労働契約法第16条

[4] 労働基準法第89条第1項3号

[5] 労働基準法第106条

[6] 労働基準法第19条

[7] 労働基準法第20条第1項

[8] 労働基準法第21条第4号

[9] 労働基準法第20条第1項

[10] 労働基準法第21条但書、第4号

[11] 労働基準法第22条第2項